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夢の始まり

またこの夜がやってくる。長くも短く、最後が始まる満月の夜。

痛いのも苦しいのもさすがに20回目の夜ともなれば慣れるものだ。

一体何のために私にこんな使命を課すのだろう。でもこれは私にしか出来ない特別な人助け。あいつの事は憎たらしいけど私がやらなきゃ。

「よしっいこう。」

そう呟き、明かりを消して床についた。

今日は何処の誰の最後だろうーーー


それは私がちょうど二十歳になった満月の夜から始まった。

その日は誰にも誕生日を祝われることなく、東京で借りたアパートで一人自分の誕生日パーティーをしていた。

二十歳になった記念に初めてアルコールを買った。亡くなった父の大好きだった日本酒だ。

ショートケーキと日本酒なんて飲んだことない人間でも絶対に合わないことはわかる。でも、今日はこれとずっと前から決めていた。今日は誕生日であると同時に事故で亡くなった両親の命日でもあり、父はずっと私が二十歳になった時に日本酒を一緒に飲むことを楽しみにしていた。

「ハッピーバースデーディア刹那ー」

こんな歌を自分に歌っても寂しさはますばかり。そしてどうにも私はお酒に弱いようだ。

いや、さすがに初めはもっと弱いお酒にすべきだったか。

二杯も飲み終える頃には意識が朦朧としていた。時折襲いくる頭痛で定期的に目が冴える感じがとても不快。

「お酒は今日で最初で最後かな、ごめん、お父さん」

時計に目をやるともう11時だ。明日も仕事だし、もうここで寝てしまおう。ソファで横になりどんどんと遠ざかる意識にゆっくりと体を預ける。それが妙に心地よくふとこんな事を考えた。いや、考えてしまった。

人は死を避けようとするのに、何故死に近い睡眠を欲し、繰り返し死に近づくのだろう。死ぬことってもしかしてすごい気持ちいい事なのかな、と。

「フハハ、面白いことを考える嬢ちゃんだ。でも理解が足りないなぁ。1回味わってみるといいよ、それ。」

どこからともなく低くて憎たらしい聞いたこともない声が聞こえる。

だれ?と問いかけようにも口が開かない。姿を見ようにも目も空かない。でも目の前になにかがいることを感じる。きっと、大きななにか。

私は寝ているんだ。じゃあこれは、夢?

「夢さ、ここまではね。ここからは違うよ。絶対的な死さ。気持ちいいんだろ?楽しむといいさ。こんなのとか良いぜ。」

当たり前のように心を読み、まるでオススメの映画を紹介するみたいに恐ろしいことを言うその大きな何かには何故か不思議と恐怖心は感じない。なにか、懐かしい感じさえした。

あなたはだれ?死をオススメするってどういうこと?これから何が起きるの?どうすれば目覚められるの?

口が開かない分心の中で大きななにかに問いかける。

「質問ばかりで対話を知らねぇお嬢ちゃんだな。俺はお前らのよく言う死神ってやつさ。名はジルファ。あとの質問は、何だっけか?面倒くせぇ。百分は一死にしかず、もういけ。」

「ではでは、1名様ごあんなーい。俺の奢りさ。精々楽しませてくれよ。」

ジルファが飄々とこう言うと私は眩い白い光に包まれた。


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