ライナー川クルーズへ 1-2
川のクルーズの途中、女性の岩の像の横を通過すると、ガイドの女性がライナー川に纏わる伝説を紹介してくれた。
ライナー川には幾つかの難所があり、船の技術が発達していない昔は航海中の船が難所を渡る際に時折事故を起こしていたのだが、昔からこの事故はこの地域に住む美しい女神が船頭を誘惑し、水の中に連れ去っていったからだと伝えられいるらしい。
「よっぽど美しかったからってさ、私には理解できないな。知らない人について行くなんて。」
「知らない私についていった君がよく言う。」
「だって凄い美人な人だと思ったから…あ…。」
「君が船頭なら死んでるね。」
◇◇◇
「ねぇ、お兄様とリネアいい感じじゃない?」
「…リネアはもう他に好きな人がいるんだ。」
「そうみたいね…。」
「うん…」
「ねぇ、ヴィルフリート」
「何?」
「ヴィルフリートはリネアが好きなの?」
「そうだけど…そうじゃない。」
「どっちなの?」
「どっちかな…。」
「ねぇ、女の人と付き合った事ある?」
「ないよ」
「私もないの。私ね、今まで国では友達もあまりいなくて、ほら、なんか私って暗いし…。」
「アリーナは暗くないよ」
「お兄様くらいしか話せる人がいなくて、だからお兄様がリネアに興味を持っていると分かった時はとても寂しかったんだけどね。」
「うん」
「あなたがいない三週間の方がもっと寂しかったの。」
「アリーナ…?」
どういう事?
「毎日あなたの事を思い出して、毎日会いたいと思っていたの。同じクラスになって、私、本当に嬉しかったのよ…。」
僕がオスカルを毎日思っていたみたいに僕を毎日思い出していたってこと?
それってまるで…。
「好きになっちゃったみたい、ヴィルフリートの事を」
「アリーナ…」
その時、僕が思い出したのはミハイルの言葉だった。
もっと他の女性と付き合ってみればいいとか、
他の女性を知らないではリネアを楽しませられないとか、
リネアが嫉妬してくれるかもしれないとか、
打算的な思考ばかりが咄嗟に浮かんだ。
フリッツならどうしただろう?きっと断るだろうな。
だけど…僕はどうする?
この可愛らしい少女には全く関心が持てないとわかっていて、半年後には僕はリネアを婚約者にするのに、それでも…?
「付き合ってみたら?」
ミハイルが後ろからそう言った。
「ミハイル…」
「ごめん、つい聞こえちゃって。兄としては妹を応援したいし、君なら良いって前もいったよね?」
ライナー川の岩の女神が
僕を水の中へ引きずり込んでいく…
「アリーナ…」
「はい」
「僕と…付き合ってみる?」
「えっ?アリーナとヴィル君が?」
「ええ、先ほど、私たちお付き合いさせていただくことが決まりました。」
アリーナが僕の腕に腕をからめた。
「うそー!?おめでとう!」
「なんかよく分からないけどおめでとう。」
よく分からないけど、よく知らない二人に祝福を受けた。
「ヴィル…本当に?」
オスカルがびっくりした顔でこっちを見る。
「うん、本当だよ。」
「…アリーナ、ヴィルを借りていい?」
「ええ。少しだけなら。」
オスカルが僕を連れてクルーザーの隅へ移動する。
「本気なのか?」
「本気だよ」
「自棄になったとかじゃなく?」
「君はどちらを心配してる?アリーナ?それとも僕?」
「アリーナには悪いけどヴィルを心配してる。」
「僕も君以外の人に目を向けてみようかと思って。アリーナの事は嫌いじゃないしね。」
「そう…。」
「僕の一番が君じゃなくなるかもしれないね。」
「…」
「オスカル?」
「…」
オスカルの目に涙が溢れる
「僕は…勝手だ。先に他の人と付き合ったのは僕なのに、ヴィルが他の人と付き合って、僕が一番じゃなくなったら寂しいとか思うなんて…。」
オスカルが泣いてる。僕を他の人とられて…
嫉妬してくれているの?
「ね、オスカル」
「ん?」
「アリーナと付き合っても、会ってくれる?」
「当たり前じゃないか」
「前みたいに二人で出かけたり、一緒に料理したり」
「うん」
「変わらずに会いたい…。」
「うん、僕も会いたい。」
「僕といる時は、オスカルとして会ってくれる?話し方も、振る舞いも今まで通りに。」
「うん、分かった。」
オスカルが僕を抱き締めた。
僕は、自分が本当に嫌な奴だってこの時自覚した。
もっと嫉妬して欲しい。僕の事で君が傷つけばいい。
悲しめばいい。
僕がいないと駄目だって…早く気づいて。




