不安
部屋に一人でいたくなくて、だけどこんなことフリッツにも言えなくて、僕はヴィッキ-の部屋のドアを叩いた。
「どうしたの?こんな夜中に…」
「…ごめん」
「リネア?」
「ふぇ…」
止まったと思った涙が、ヴィッキ-を見て安心したせいか一気に溢れてきた。
「…中へ入りなさい。」
ヴィッキーは僕にジャスミンティーを入れてくれた。いい香りだ。僕は、さっき起こったこと、フリッツと僕が付き合っていることを話した。
さっきの事を思い出すと身体が震える…あのまま首を絞められても、犯されてもおかしくなかった。
「ヴィルがこうなることはなんとなく予想していたけど…」
あの目、狂気に満ちていた。
元々僕が絡むと異常なところがあったけど、まさか僕にあんな事をするなんて…。あいつは男として僕を見ているはずなのに…。
「リネア」
ヴィッキーが僕を抱き締めた。
「怖かったわね。今日はこっちに泊まっていきなさい。明日もよかったらいらっしゃい。一人でいるのが不安なら。」
「ありがとう。」
震えが少しずつおさまってくる。
「フリッツには言う?」
「…ヴィルと先に話をする。フリッツには言わないで。」
「わかったわ。」
次の日の朝からヴィルは登校していた。
隣のクラス、ユーラの妹のアリーナも同じだった。
数学の授業で二人と顔をあわせた。
「お早うリネア」
アリーナが僕に話かけてくれた。
「お早う」
「…ヴィルフリートもお兄様もリネアって呼んでるから、私もそう呼んでみたの。」
アリーナは可愛い。
「リネアでいいよ。私もアリーナって呼んでいい?」
「ええ、よろしくね。」
ヴィルの顔が見れない。見たくない…。
「ヴィルフリート、リネアの隣座る?」
「いや、ここ狭いし、あっちに座るよ。」
「じゃあ私も一緒に行くわ。」
避けされたことにほっとする自分がいる。
せっかく帰って来たのに、どうしてこんな風になっちゃったんだろう。
部屋に戻って今日の宿題をしていると部屋のドアが開いた。
僕は怖くなった。
息が苦しい…。
部屋に入って来たのはフリッツだった。
僕は思わずフリッツに駆け寄って抱き締めた。
甘いいい匂いがする。
「…これ食べるかと思って。」
「シュークリーム?」
「あぁ、さっき買ってきた。」
「食べる。」
僕はコーヒーを入れてテーブルの上に置いて、二人でソファーに座った。
「ヴィルに会った?」
「会ったよ、この部屋に来て、私を見た瞬間…キレた。」
「ピアスを見て?」
「…きっかけはそうだね。」
「じゃあ、意図は伝わった訳だ。…で?」
「別れろって言われた」
「…お前はどうしたい?」
「別れたくないよ。」
「よかった…。俺もしばらく忙しくてヴィルといつ会えるかわからないし…。話をしなきゃな。」
フリッツが僕の膝の上に寝転ぶ。
「忙しいんだ?」
「ああ、仕事がたまってて、今日も今から城にもどらなきゃならないし…。昨日も会えなかったから今日はどうしてもお前に会いたくて来た。勉強の邪魔した?」
「してない。来てくれて嬉しい。」
フリッツの頭を撫でる。
安心する…。このまま、ここに居てくれたらいいのに。
「行かないで」
「リネア?」
「冗談だよ…。」
「何かあった?」
「ないよ、忙しいんでしょ?行きなよ」
「お前は、俺がそんな白状な奴だと思ってるのか?」
「…思ってないから言ってるの。ちゃんと言える状態になったら言うから。」
「…分かった。無理はしてないな?」
「してない」
フリッツが僕の髪に触れた。
「このヘアスタイル、お前に似合ってるな。すごく可愛い。」
フリッツが赤くなる。
「そう?」
「あぁ。」
「ありがとう」
「行きたくなくなる…。このまま泊まっていきたい。せっかくベッドも買ったのに俺が使えないなんて…。週末は来てもいいか?」
「…やらしいことしないなら。」
「しないよう努力する」
「努力…」
「…そう言えば、金曜日はパーティーだったな。用意はできたか?」
「まぁ、大体…」
「俺は主催者側で今回はエスコートはできないが、ちゃんとやれよ、見張ってるからな。」
「頑張りマス。」
「よし、じゃあ行く。お前も頑張れよ。」
「うん、ありがとう。…明日は?明日も来てくれる?」
「…そういう可愛いこと言われると、せっかく仕事に戻るよう切り替えたのにまた行きたくなくなる…。」
「ごめん、いってらっしゃい」
「ああ、行ってくる。」
そう言ってフリッツは僕の額にキスをした。
夜遅く、昨夜のことを思い出して眠れなくなった。
どうにかして話をしないと…
ヴィルが、怖い…。




