リネアの部屋にて
「…これが噂の共同製作作品か」
リネアの寮室に家具が入ったというので俺は見に来た。
公爵令嬢の中でも資産家だしそれなりに援助してもらっているはずなんだが…なんというか、カールソン家の者は本当に贅沢をしない人達らしい。各国の王族や国賓に合わせ部屋はスケルトンの状態で貸し出すのだが、これをそのまま使って家具だけ置いているのはこいつくらいのもんだろう。しかも…家具の選択が渋い。14歳の部屋とは思えない。
そしてこの壁画…。
俺は美術には明るくないが、あの男の才能が普通じゃないのは分かる。何もない部屋がかえってよく見える。家具と照明を含め部屋全体が作品のような印象さえしてくる。
「はい、コーヒー入れたよ。」
「ありがと。」
俺はリネアのソファーに座った。
「フリッツに一番最初に見せたかったんだ。キッチンのお返し。」
…こういう所が可愛いんだよな、こいつ。
「フリッツの部屋からは遠いんだっけ?」
「あぁ、階も違うしな。」
「そっか…これから今までみたいに気軽に会えなくなるのか?」
「そうだなぁ、今までと同じようには無理だな。俺も仕事と課題で大概忙しいし、お前も飛び級で15歳のクラスに入るんだろう?かなり忙しいはずだ。」
「はぁ…。なんかなぁ。」
「なんだ?」
「だって僕、こっちに来てからほぼ毎日フリッツに会えてたのにさ、たまにしか会えないなんて…。」
「リネア」
リネアが俺の肩にもたれる。
「これを」
俺はリネアに鍵を渡した。
「鍵?」
「…テラスの鍵。」
「テラスの?」
「そう、俺の部屋に繋がっていて、俺と護衛しか持ってない鍵だ。」
「こんな大切な物預かれないよ、何かあったらこわいし。うっかり落としてコピーでもされたら困る。」
「…それじゃ会いたい時に会えないじゃないか。」
「じゃあ…これ。」
今度はリネアが鍵をくれる。
「これ…」
「この部屋の。来たいとき来てくれたらいいから。」
「リネア…いいのか?」
「や、やらしい事しないなら」
リネアの顔が赤い
「…ヴィルやミハイルにも渡すのか?」
「…二つしかないから。予備に持ってて。」
めちゃくちゃ嬉しい。今までカップルが鍵を渡し合うのを見たことがあったが、自分には関係ないことだと思っていた。
「ありがとう。…毎日来るかも…。」
「いいよ…。ただ…。」
俺はリネアの手を握った。恋人つなぎというやつで。
「ヴィルには気づかれないように、か?」
「…多分ばれるよね。ヴィルは僕のことはなんでも分かるから。だけど…。」
リネアが俺の顔に触れる。
「もうこういうことしちゃいけないって、あのキスした時が最初で最後だったはずなのに、もう、あの日より前に戻れる気がしないんだ。」
「お前は、どうしたい…?」
「分からない、…自分が分からない。どうして、僕は男なのに君にこんな感情を抱いてしまうのか、自分でもおかしいと思うんだけど…。君だって、僕が男なら、キスしないだろ?」
「…しないな」
「だよな…」
俺はリネアの手を掴んで目を見る。
「だけどお前は女だ。少なくとも見た目は。…リネア、自分がオスカルであること、男だったことを忘れろとは言わない。だけど俺はお前のその性格と見た目を分けて見たりしないし、今の姿を仮のものみたいに扱ったりしない。俺にとっては今のお前がリネアそのものだし、だからキスしてもおかしくない。」
「フリッツ…。」
「お前らしく、が'男らしく'である必要もないだろう。お前は女性であることを放棄はできない。性差別をする訳ではないが、これから国際社会で活躍するつもりなら時には不本意でも常識に合わせなくてはならない時もある。このままだとお前は活躍の場を自分から減らすことになるぞ。」
リネアが悲しい顔をする。でも俺は…
「もうそろそろリネアであることを受け入れろ。公爵の娘なら、それらしく振る舞えるよう努力しろ。やりたい事があるならそれなりの努力をすべきだろ。お前の回りにいるやつは、自分の置かれている立場を理解してやりたくないこともやるし、それを受け入れている奴ばかりだ。お前だけだぞ、いつまでもくよくよしたりやりたくない事から逃げているやつは。」
リネアがまた涙で目を潤ませる。
「俺…お前を泣かせてばっかりだな。」
リネアを抱き締めて頭を撫でる。
「フリッツのバカ、意地悪…」
「はいはい」
「フリッツ…僕…努力してみるよ」
「あぁ。」
「僕がもてても知らないからな」
リネアが笑いながら言う。
「それは困る…。…そういえば、お前、ベッドは?」
「え?」
「なくないか?」
「…あ、忘れてた。」
「…俺が買う」
「え?」
「ちゃんと二人で使えるやつ」
「…やらしいことしない約束だぞ。」
リネアの顔がまた真っ赤になった。




