寮生活の準備
語学研修も明日で最後になり、僕はようやく寮に入る為の準備を始めた。王室関連の人のみが入寮できる場所に僕は部屋を貰っているがこれから準備を始めるのは僕くらいらしい。
ヴィルも指示を事前に出していたようで部屋は完成しているとフリッツが言っていた。
部屋は華美な装飾が一切なく、シンプルな部屋だった。入寮する生徒がそれぞれに部屋を改装し、使い終わったらまた元の何もない状態に戻すらしい。
僕は予算もあまりなかったから、街へでてお気に入りの家具や照明を探すことにした。床は元々オークのヘリンボーン張り、壁はシンプルに白いから、アクセントカラーを入れてみようかな。
今日は買い物にユーラがつき合ってくれた。何故かエマが授業後に教室に来て一緒に行くと言う。
最初は不思議な顔をしていたユーラもエマの研究室の話をすると建築の話で盛り上がった。
「ロマノ君は本当にいろいろ詳しいのね。」
「フッガーさんの話こそ興味深いです。私も建築を専攻しようかな。」
「じゃあ私たちのゼミにいらっしゃいよ。みんな歓迎するわ。」
ユーラがこんなに他人と話をするのは珍しい。僕は嬉しくなった。
「ところでリネア、何を買うか決めてるの?」
「うん、この前アンティークショップに行ってみつけたんだ。」
僕がずっと前から欲しかったスモーランド隣国の作家のイージーチェアを買う予定だ。それから、コーヒーテーブル、ライティングビューロと、チェア、それから照明器具。
僕はお店で一通り注文を済ませ配達日を指定した。
「女の子の部屋とは思えないセンスね。私は好きだけど、私が14歳の時はああいうチョイスはないわ」
「あとはペンキを買って塗ったら完成だよ。エマ、どこかにペンキと刷毛と養生を買える場所知ってる?」
「あなた、自分でやるつもり?」
「うん、自分の家でもやってるよ、壁紙変えたりとか、木を張ったり…」
「面白そう。ねぇ、リネア、頼みがあるんだけど…。」
自分の部屋から画材一式を持ってきたユーラが準備を始める。
僕とエマがお茶を入れていると、ユーラが筆をとって僕の部屋の壁に絵を書き始めた。メガネをかけ髪を束ねシンプルなシャツのとパンツ姿が新鮮だ。
筆使いが大胆かつ繊細で下書き無しで描いているとは思えない。
「リネア、ここの色この赤か、こっちの赤、どっちがいい?」
「こっち」
「うん、私もそう思う。」
「僕も手伝っていい?」
「もちろん」
ユーラの描く絵に僕がアクセントを加えていく。何これ、めちゃくちゃ楽しい。音楽のセッションみたいだ。
夜になってもユーラと僕の作業は休みなく続いた。途中からヴィッキ-やゲオルグ侯爵も来て作品の完成を見守る。
「あれが噂のロマノ兄か。…芸術家だったのか?」
「みたいね」
「私、好きになっちゃいそう」
エマがうっとりとユーラを見つめた。
朝日が昇り始めた頃、モダンなアート壁画が完成した。僕の選んだ家具に合わせた雰囲気にしてくれたことがわかる。色使い、バランスがとても美しい。
気づくと僕たち二人しか部屋にいなかった。みんなはそれぞれの部屋に戻ったらしい。
「ユーラ…」
ユーラがコーヒーを飲んでいる。朝焼けの光を受けたユーラの髪がキラキラしていた。この人そのものが芸術作品みたいだ。
「リネア。久しぶりに楽しかったよ。」
「君が凄すぎて言葉がでない…。」
「私も部屋に戻って今日の支度をするよ。」
「あ、うん」
「また後でね、リネア。今日が最後の研修日なんて寂しいよ。」
ユーラはそう言って僕の頬にキスをした。
朝、城にもどる時間がなかったから僕はヴィッキ-の部屋のシャワーを借りて朝食を用意してもらった。ついでに服まで貸してくれるという。
「ミハイルがあんなに面白い子だなんて知らなかったわ。」
「うん、本当にアーティストだよね。一緒にいるとすごく刺激的だよ。」
「…。エマがすっかり気に入っていたわ。彼女の研究室に引き入れたいそうよ。」
「いいなぁ。僕はまだ基礎課程のみだろ?早く研究室に入りたい。」
「そしたらフリーダみたいに国際コースに行くの?」
「そうしたいな、それにやっぱり研究過程に入るなら大きな大学で学びたい。スモーランドはここと比べると小さいから。」
「もうこっちに卒業までいたら?」
「そうしたいなぁ。帰りたくない。」
「勉強だけ?」
「え?」
「帰りたくない理由」
ヴィッキ-がこちらを見て笑う。
「うちの弟とも少し進展してるみたいだし」
「…。」
「嬉しいのよ、姉としては。あの子、小さい頃から国のことばっかりでずっと気が張ってたから。あんな嬉しそうな表情ずっと見てなかったの。」
「そうなんだ」
「頑固でわがままなところもあるけど、根はいい奴よ。」
「知ってる。」
「私はあなたが側にいてくれたら嬉しいわ。姉としてはね。
もちろん恋愛は自由だけど。」
「…ヴィッキ-…」
「あなたがうらやましい。ヴィル君にしろフリッツにしろ、ミハイルにしろ、先を望めるもの…。」
「ヴィッキ-?」
ヴィッキ-は少し悲しい顔で笑った。




