姉と弟
朝食を食べに食堂に行くと、弟のフリッツが先に食べていた。
「リネアは?」
「…さぁ。」
「一緒に食べようと思って部屋に行ったけどいなかったわ。知らない?」
「…まだ寝てる。」
「どこで?」
「…俺の部屋」
「あんたまさか…」
私は弟の胸ぐらをつかんだ。リネアはまだ14歳の少女。外国からお預かりしておきながら身内が手をだしたとなれば大問題だ。
「落ちつけ、姉上。俺は何もしていない。…昨日二人で料理を作っていたら遅くなって、そのまま床で寝たから…。」
「…はぁ、ならいいわ。でもそろそろ起こしてあげないと遅刻するわ。」
「そうだな。」
「あんたたち…何かあったでしょ?」
「何で…」
「スシを食べに行った時、そういう空気つくってたわよ。」
「…そうか?」
「そうよ。…知らないわよ、ヴィル君もうすぐ帰ってくるんでしょ?」
「…。帰ってきて欲しいような欲しくないような。」
フリッツが留学中に一人の女の子に恋をしたという話はゲオルグから聞いた。スモーランド王国の公爵の娘。言葉使いも服装も男のようでかなり変わった子だという。
私への土産に高性能テントを選んでくれたらしく、興味がわいた。
実際にリネアに会うとゲオルグの話どおりユニークな子だった。しかも男性に興味がないと言う。
フリッツは気さくで話しやすく誰とでも打ち解けることのできる子だけど、本当に心を開く事ができる人は少ない。女の子と遊んでいた時期もあったけど本気で誰かを好きになることはないんじゃないかって思ってた。真面目で国への忠誠心が高すぎるが故、彼は常に孤独だった。
そんなフリッツがリネアに会って変わった。仕事を急いで片付けてリネアに会う時間をつくって、リネアが喜ぶためにいろいろしている。フリッツを見ていると姉としては応援したくなる。
私は、フリッツのように行動することはできない。
最初から無駄だと分かっているから。
私の初恋が実ることはない…。
国王の娘に生まれたが故に、将来はどこか政略的に友好を保ちたい国の王族に嫁ぐ将来が待っている。
仕方ないとは思う。だけど、本当は私だって自由に恋がしたかった。身分に捕らわれることなく、あの人の側にいて、あの人と自由に暮らせたらどんなに幸せだろう。
あのスクールの皇室関係の子女が入る寮には私のような境遇の者ばかりいる。経済的には豊かで幸せそうに見えるけど、私たちは国の駒でしかない。
「フリッツには好きな人と結ばれて欲しいわ。」
「…なかなか簡単じゃないんだ。」
「そうね、ヴィル君無しにしても大変そう。」
「…そうなんだよ。今日はまたミハイルと出かけるらしいし。」
「何しに?」
「寮の家具を買いに行くらしい。」
「なんでミハイルが?」
「はぁ…。俺はヴィルも強敵だが、ミハイルも同じくらいヤバイと思う。」
「そうなの?」
「あの二人、感覚的な所で合うみたいなんだ。しかも、あいつにキスされたりしても気にならないって言うんだぞ。おかしくないか?」
「…なんて言っていいか分からない。意識してないって事じゃないの?」
「にしても生理的に嫌じゃないってことだろ?俺が注意してもまったく意味がないし。」
「…あんたがこんなふうになっちゃうなんて…楽しいわ」
フリッツの顔が真っ赤だ。
「俺だって自分でも信じられない。俺が…こんなふうになるなんて。」
弟が可愛い。
いいなぁ…。
「よし、お姉さんが可愛い弟の為に護衛をひとりつけてあげよう。」
「…なんだよ、それ?」
私は朝スクールでエマに声をかけた。




