側近達の小話
「アウグスト…クラスの様子はどうなんだ?」
「あぁ…、優秀な生徒ばかりだったぞ。変な奴しかいなかったが。」
私は研究室に残ってアウグストと酒を飲んでいた。アウグストは私の幼なじみで殿下の側近だ。
語学研修中、殿下に頼まれリネア様のクラスの講師を受け持っている。
「変な奴ばかり?リネア様以外も?」
「あぁ、リスラ共和国のロマノ兄は恐ろしく美形で、女装したような格好でたまに来るし、弟はメガネで前髪が長く顔がよく分からん奴だと思っていたら、もう一人のクラスメイトといちゃつきだした。」
「なんだそれ…」
「それに、殿下に聞いてるかもしれんが」
「なんだ」
「ロマノ兄はリネア様を気に入ってる。」
「え?!」
「他の者には一切話しかけないが、リネア様にはべったりだ。ゲオルグ…お前、ロマノ兄に会ったことは?」
「ないな、取引にはリスラ共和国の者の名前が表立ってでることはない。」
「そうか…びっくりするぞ。あんな美形見たの初めてだ。頭も異常にいいし、知識も豊富。毎回提出するレポートの出来が16歳の書いたものとは思えないくらい良くできていて、下手に採点したりこちらの意見など述べられん。」
「へぇ…リネア様はどうなんだ?」
「リネア様は大概のことは良くできるな。語学も堪能で、いろんな国から来た留学生と授業の合間に話しているのを見かけるし。人当たりがよく話しやすいから好かれるだろう。」
「ロマノ兄…か。ただでさえヴィルフリート殿下もいるのになぁ。」
「そうだな。殿下も苦労するな。」
「あぁ、私は殿下がやっと見つけた少女とうまくいって欲しいと思ってる。」
「勝算はあるのか?」
「どうだろうな…。なかなか進展してないみたいだが。」
「あの殿下がなぁ。…そういえばお前こそ、ヴィッキーとはどうなってんだ?」
「なっ?!」
「殿下のこと言えないんじゃないか?」
「私は…そういうのじゃ…」
「もたもたしてると国外の王子にさらわれるぞ。」
「…。」
痛いところをつかれ、私は何も言えなくなってしまった。
◇◇◇
僕はフリッツの部屋で感動していた。
「ズルい…君たちはすぐにこういうことが出来て。」
フリッツの部屋の給湯スペースがキッチンに改造されている。
キッチンは全てステンレスで出来ていて機器はフレーデルの有名ブランドで統一されている。
僕とヴィルはトスカナの遊び心ある繊細なデザインのキッチンが好みだけど、フリッツのミニマリストらしいシンプルかつ美しいデザインも格好いい。
「男のキッチンて感じ。あ、だから昨日部屋に呼んでくれたんだ。」
「あぁ、どうしても一番に見せたくてな。」
「うん、すごくいい!何か作る?」
「今からか?」
「うん。」
「よし、じゃあ…カニエルブッラ、久しぶりに食べたい。」
「いいよ!」
僕たちは夜中にブッラを作り始めた。こういうフリッツのノリの良さが僕と合うところだ。これがヴィルなら明日の予定に支障をきたすからだめだと言うだろう。
「フリッツ…、まだ、生地たくさんあるんだけど」
「もう丸めるの飽きた」
「すぐそれだ」
フリッツは冷蔵庫からビールを取り出した。
「ねぇ、自分ばっかりいつもズルい。」
「…少しだけだぞ」
「…」
冷たくておいしい。
ブッラを作りながらちょいちょいフリッツのビールを飲んでいたらいつの間にか酔いが回る。今日はカブキも見に行って少し疲れていたみたいだ。
ブッラを焼き終えて冷ましている間に限界が来たらしい、僕はそのまま床で寝てしまった。
次の日の朝、目が覚めると僕はフリッツの部屋のベッドにいた。
フリッツが横で寝ている。昨日の夢と同じように髪の毛が整えられていなくて可愛い。バスローブを着て寝るんだ…。
さらさらの黒い髪、睫毛が長い。…こうしてじっくり見たこと今まであんまりなかったかも。
僕はドレスのまま寝てしまったらしい。ドレスがくしゃくしゃだ。アンに怒られるかな。起きて着替えてこようかな。
…なんとなくフリッツと離れがたい。あと少しだけこうしていよう。
僕はフリッツの髪を撫でながら体にくっついた。
フリッツの匂い…やっぱり安心する。
僕の話を聞いて真っ直ぐな言葉をくれる人。
側にいると楽しくてあったかい気持ちになる。
僕がどうして君にだけこのような気持ちになるのか不思議だ。君は本当に特別な人だ。
半年後、僕は君から離れられるんだろうか?
この気持ちを閉ざすことができるんだろうか?
ずっと側にいたいのに…。
フリッツが僕を抱き締める。
昨日の夢の続きを見てるみたいだ。
体温が気持ちよくて僕はもう一度寝てしまった。




