フリッツと僕 1
週末の朝、ヴィルが食堂にいなかった。
僕が一人朝食を食べているとフリッツが入ってきた。
「おはよ…ヴィルは?」
「おはよ、…朝から出ていったみたい。」
「クラスの用事か?」
「さぁ…。」
なんとなく、昨日夜から気まずい。ヴィッキーからあんな話、聞かなきゃよかった。
「…あのさ。」
「うん」
「今日、予定あるか?」
「ん?フリッツは休み?」
「あぁ、ちょっと出かけないか?」
「うん、いいよ。」
僕たちは、馬に乗って森へ出かけた。
森の中は涼しくて、植物の匂いがして本当に気持ちがいい。
スモーランドは国土の殆どが森で、森があるのが当たり前だからこのような大きな街に来ると森が恋しくなる。
「乗馬も得意なんだな。」
「うん、妹が別邸で過ごしていた時、よく馬に乗って遊びに行っていたから。この馬、いい馬だね。」
僕は馬の体を撫でた。
「2頭とも俺のお気に入りなんだ。…あそこで水を飲ませるから、そこまで競争だ。」
「わかった!」
「負けたら、勝った方の言うことを一つ聞く、いいな?」
「いいよ!」
「久しぶりだろうからハンデをやる。10秒数えたら俺もでるから先に行け。」
僕は水を飲ませる小屋まではもうあと少し。10秒貰えたら楽勝だろう。何を貰う?今日のランチにしようかな、それともデザート…悩むなぁ。
「油断したな」
「フリッツ!!」
しまった、抜かされた…。
「悔しい…。」
「油断大敵だ。俺も乗馬は得意だからな。」
僕たちは馬から降りて、木陰に入った。
フリッツが持ってきたジュースとクッキーを出してくれる。
「フリッツは女の子にもてるでしょ。」
「なんで?」
「優しいから。」
「…そうだな、俺はもてる。…オスカルはどうだったんだ?」
「どうかなぁ?12歳にもなっていなかったし。…でも、友達はたくさんいたよ。女の子も、男も…。僕がオスカルのままならなぁ。乗馬も負けないし、一緒にいろいろできるのに。」
「俺はお前がリネアでよかったけど」
「なんで?」
「お前はさ、女である事をいつまでもハンデとして捉えたり、拒否し続けて生きて行くのか?」
「…フリッツには分からないよ。僕の気持ちなんか。そんな格好よくて、何でもできて。」
「リネア」
「僕だって君やヴィルと酒を飲んでくだらない話をしたり、好きな女の子の話をしたりしたかった。14歳にもなって何も知らなくて、こども扱いされて、男にちょっかいかけられたりするんだぞ?君なら耐えれるか?」
「…うん、俺なら耐えれないかもしれん。」
「素敵だと思う女性に会えたと思えばどちらも男だし…僕がどんなにがっかりしたか分かるか?」
「…俺はお前になれないからなんとも言えんが、がっかりするだろうな。」
「そうだよ。みんな僕のこと変な奴って思ってるだろうし。僕は僕なのに。もういやだ、こんな体…。こんなんだったらそのまま死ねばよかった。」
僕がそう言った瞬間フリッツに頬を叩かれた。
「…何するんだよ…?」
「…せっかく妹に生かされた命だろ?ありがたく大切にすべきなんじゃないのか?」
「…。」
「世の中にはいろんな障害を抱えた人がいるし、恵まれない環境で育つ者もいる。みんな違うし誰も平等じゃない。だけどお前は、経済的に恵まれた家庭で育って優しい家族がいる。こうして留学もさせて貰えて好きなことができている。俺やヴィルは将来の選択なんてできないんだぞ。お前はお前の与えられた境遇を最大限活かして生きるしかないだろう。」
「ふぇ…」
「泣くな!」
「ふぇー」
「俺はいつまでもメソメソする奴は好きじゃない。いつまでもそうやって卑屈に生きているのならとっとと国へ帰れ。付き合いきれん。」
「ひどい、フリッツのバカ!」
「バカはそっちだ。バカリネア!」
僕たちはそのまま無言で帰宅した。
その日はそのまま一言も話さなかった。




