ユーラの提案
僕たちはコーヒーを再度注文した。
さっきからユーラが無言だ。
「どうしたの?」
「…、私は、変われると思う?」
「え?」
ユーラが僕を見つめて、僕の手をとる。
「もう少し…他の人間ともつきあってみることができると思う?」
「さぁ…、僕もユーラのこと知らないし…、そもそも、変わりたいの?」
僕は手を離した。
「…リネア。そこはさ、変われるよ、協力するよって言うとこ。」
ユーラが笑う。
「だって適当なこと言えないよ。だいたい変わることを望んでいるのか分からないし。」
「ふうん?」
ユーラの表情が変わった。
「みんながみんな誰とでも仲良くできる訳じゃないし、そういう人になる必要もなくない?そもそもユーラはさ…。」
「何?」
「僕を試してる。何が目的か知らないけど。」
僕はユーラを見る。
「…何でそう思う?」
「フリッツと僕の仲がいいと思ってるから。」
「君は…、なかなか侮れないね。」
「無理だよ、僕は。君の思うようにはならない。」
「どうして?」
「ユーラが男だから。僕は男に興味もてない。」
「…私が女だったら?」
「駄目、それは反則。見た目は凄く好みだから。」
僕は自分の顔が赤くなるのが分かった。
「…君は変わってる。私は女性にこんな意味の分からない拒否をされたのは初めてだよ。フリッツも苦労してるだろうね…。」
「フリッツは僕の事は犬だと思ってるんだ。この前なんか本気でご飯抜きにされそうになったし。」
「何それ…」
ユーラが笑いだした。
「僕、そろそろ帰るよ。」
「待って、途中まで送る。」
また手をつかまれた。
時刻は夕方の18時を過ぎていたけど、フレーデル王国の夏は夜10時過ぎまで明るい。仕事帰りの人はこれから食事や遊びに行く時間だ。カフェテリアのテラス席はビールを楽しそうに飲む人たちで溢れている。スモーランドと同じだな。
ユーラは何故か僕の手を繋いだまま歩く。
「リネア、私はね、確かに君を使ってフリッツに嫌がらせをしてやろうと思ってたんだ。」
「うん…。」
「だけど、気が変わったよ。君は面白い。」
「それはどうも…?」
「私のこと嫌い?」
「嫌いも何もよく知らないし。」
「ははっ!確かに…。ねえ、リネア」
「うん?」
「私と、付き合ってみない?」
「…どういう意味?」
「私はね、他人が苦手なんだ。フーシェ君に言った事は本当だよ。私が今まで執着したのはフリッツだけ。唯一、彼だけが利害関係なしに友達になろうと声をかけてくれたから…。」
「ユーラ」
「でも、私もね、そういう自分をこの留学を機会に変えてみてもいいかなって。思った以上に回りに人がいるのも悪くないって思えたんだ、君のおかげで。」
「…」
「君は男に興味がないと言う。だけど君が女性であることは変えられないじゃないか。だったら、試しに私と付き合ってみないか?と提案してみたんだ。男でも女でもパートナーがいるのは楽しいんじゃないかって…。」
「…パートナー…」
「私は芸術が好きだし、君とは話が合う。君は女性らしくないし、品性に若干かけるけど苦にはならない。私も君を女性として意識できるかは分からないけど、妹以外で初めてなんだ。一緒にいて苦痛じゃない人間…。」
「…なんて言ったらいいか分からない。」
「返事は急がないよ、ただの提案だから。でも即座に断られなくてよかった。」
ユーラが笑う。
「…聞いていい?」
「うん?」
「付き合うって何するの?」
「え?何その質問。」
心なしかユーラが少し照れているように見えた。
「だからー、ユーラは僕と付き合って何したい訳?」
「…そうだね、一緒に出かけて、映画をみて内容を評論したり、美術館や博物館にも行きたい。あとは一緒に絵を描いたり音楽を聞いたり…」
「いいよ」
「え?」
「付き合うのはよく分からないけど、それ僕もやりたいことばかりだ。とりあえず、友達になろうよ。そんで、それを一緒にやる」
「…いいの?」
「うん、友達だよ?」
「仕方ないな…。」
ユーラは僕に右手を差し出した。
「改めて、よろしく。」
「よろしく、ユーラ。」
僕もユーラの手を握った。
こうして僕たちは、友達になった。




