語学研修 3日目
「ロマノ様、たまには私の相手もしてください。リネアばっかりずるいわ。」
ミーシャは積極的な令嬢だ。ユーラのことを気に入ったらしい。
「フーシェ君、私は基本的に知らない人と関わるのが苦手なんだ。理解して貰えるとありがたい。」
「リネアとは元々お知り合いだったのですか?」
「いや、ユーラとは最近知り合ったばっかりだよ。」
またユーラに足を踏まれる。余計な事を言うなということらしい。
「私の方が女らしいし、年も近いから仲良くなれると思うんです。ね?私もユーラとお呼びしても?」
ミーシャがユーラの顔を上目づかいで覗きこむ。
あれが令嬢のテクニックか。あ、そう言えばヴィルもあれを時々僕にやるよな。僕に言うことを聞かせようとする時。
「私は研修始まって間もなく小さなクラスの雰囲気を壊すような事はしたくない。しかし、私は君に興味もないし、愛称で呼ぶのは遠慮してほしい。…失礼。」
ユーラは無表情のままミーシャにそう言って部屋を出た。
「…んもぅ。シャイなのかしら?」
「さぁ?」
「フーシェさん、それくらいにしておいた方がいい。」
「ロマノ君…?」
「あなたが今いるのがリスラ共和国だったら、兄はあなたをこのクラスから追い出し、明日ここにあなたの席はないでしょう。あの人は本当に他人に近づかれるのが嫌いなんだ。言うことを聞いた方がいい。次は本気で貴方を嫌う。」
「だって…じゃあなんでリネアは…。」
「…私にも分かりません。」
「僕、ユーラを連れてくるよ。」
ユーラは教室の近くにあるラウンジに座っていた。
「…授業はじまるよ。」
「…苦手なんだ。私の事、何も知らないのに、ああいう好意を向けられるの、吐き気がする。」
この人はヴィルと似てるかもしれない。
「ユーラが綺麗だからだよ。」
「…。不思議。」
ユーラがまた僕の肩に寄りかかった。
「ん?」
「リネアに言われると嫌じゃない。」
「僕が女として認識できないからじゃない?見た目も性格も。」
「そうかも…。すごく楽。」
ユーラが目を閉じる。
「ミーシャ、傷ついたと思うよ。彼女確かに少ししつこかったけど、ただ仲良くしたかっただけなんだと思う。せっかくのクラスメイトなんだから、好きになれなくとも嫌いにならないで。」
「…」
「帰りカフェにでも誘ってみたら?」
「行きたくない」
「強要はしないよ。」
「…リネアがいくなら…」
「…アップルパイ食べたい。」
「え?」
「アップルパイ、食べに行こうよ、みんなで。この前美味しいお店見つけたんだ。」
「…うん。」
授業後、僕たちは4人でアップルパイの美味しいお店に入った。
ロマノ弟君は口数は少ないけど社交性が低い訳ではなさそうだった。メガネをかけていて前髪が目の辺りまで伸びているから、正直どんな顔か良くわからない。
「ロマノ君、注文決まった?」
「よかったらセルゲイと読んでください。私もお二人をお名前でお呼びしても?」
「いいわよ」
「うん」
それから僕たちはいろいろな話をした。ミーシャはこの国の薬学に興味があって留学してきたらしい。
「ユーラは?」
「私は建築、あと音楽」
「建築は僕と一緒だ!楽器とか弾けるの?」
「ピアノとバイオリン」
「素敵ー!!似合いすぎるわ!」
「セルゲイは?」
「私は…、やりたいこととか、まだ分かりません。ただ、外国にでてみたくて。」
「そうよね、私も一番の理由はそれよ。ランク王国以外の国に出て、いろんな人に会ってみたかったの。」
うんうん、分かる。僕も同じだ。
暖かいアップルパイが運ばれてきた。
「うん…、おいしい」
セルゲイが嬉しそうな顔をした。
「でしょ?!良かった!このアップルフィリングの甘さとシナモンのバランス、パイのサクサク感がたまらないんだ。」
「リネア、料理の解説者みたいね。」
「僕は自分でつくるのも好きだからね、常においしいものを探求してる。で、家で作ってみるんだ。」
「うちの国はおいしいお菓子で有名だから、こんど来たらおいしい所連れて行ってあげるわ。」
「行きたい!食事もおいしいものがいっぱいだよね。」
「そうね、この国よりバラエティーは豊富よ。」
ミーシャがユーラを見る。
「…ロマノ様」
「ん?」
「先ほどはごめんなさい。しつこくしてしまって。私、ただお話してみたかっただけなんです。不快にさせてしまうつもりはなくて…。」
「…私の方こそ失礼した。今まで妹以外の人間とこのように必要もなく関わる事がなかったから…。」
「兄上…。」
ミーシャはほっとした顔をして、セルゲイは驚いた顔をしていた。
「さ、そろそろ帰ろうか、課題もまってるし」
「そうですね、いきなり毎日宿題の持ち帰りがあるとは思ってなかったわ。」
「…リネア、ちょっとだけ、残れる?」
「いいけど、あと少しで夕食だからそれまでに帰らないと。」
「分かった。」




