フリッツと私
「お兄様、フリッツに会ったんですって?」
「ああ。君が興味を持ったスモーランドの皇太子にも会ったよ。」
「え?本当?」
「うん、近くでみたけどとても可愛い少年だったよ。」
「ずるいわ、今度紹介してください。」
「あぁ、分かった。」
「…あの変わった少女にも会えたの?」
「会えたよ、本当に見た目以外も変わってたよ。」
「…お兄様がそんな顔するの珍しいわね。」
だって、楽しかったんだ。
フリッツがあの少女に見せる表情も、少年への嫉妬心も、私が今まで、見たことないものばかり。
フリッツが本当にあの少女を好きだって当の本人以外誰もが分かるのに気づいてもらえない。
そしてあの少女、話し方も振る舞いもまるで少年で、おまけに男に興味がないと言いきった。
なんなんだろう、あれは…。
フレーデル王国とスモーランド王国の皇太子二人に気に入られているのにまったくそれを意に介さない不思議な少女だった。
「新学期が楽しみになってきたよ。」
「ずるいわ、お兄様ばかり楽しそうで。あ、そういえばお父様から連絡がきてたわ。例の件、話が進みそうだって。…何の話?」
「さぁ?」
ニコライ・イヴァノ・ロマノ…リスラ共和国現大統領。
あの男は普通じゃない。一代にしてあれだけの財力と世界へのネットワークを広げた。人も平気で売買するし、殺すのも躊躇わない。金の為ならなんだってする人だ。
私は小さい頃からそういう父を見てきた。そしてあの男の手先になるよう強要された。言うことをきかなければ従うまで地下に閉じ込められ、自分の代わりはいくらでもいると言われた。
私の母は、病弱な人だった。私が6歳になる前に亡くなった為母の記憶は少ししかない。
私の腹違いの兄弟達は常に父に取り入り父の次の座を狙っている。話ができるのは唯一この妹だけ。
私がフリッツに会ったのは10歳の時、フレーデル王国で開催された国際会議についてきた時に父から紹介された。
フリッツの母親は僕の母のいとこだったらしく、仲のよい姉妹のような関係だったと懐かしそうに教えてくれた。
外国にいる再従兄弟。少し興味がわいた。
私と同じ年くらいの少年。明るくて真面目な性格。フリッツは初対面の私にも優しかった。人見知りが激しく他人とほとんど話をしなかった私。いつも一人で部屋で絵を描いて本を読んで過ごしていたから友達なんていなかった。そんな私に彼は友達になろうと言ってくれた。
嬉しかった。
だけど、彼は人気者でいつも回りに人がいて、
結局私は相手にしてもらえなかった。
楽しそうで、幸せそうで、自信に満ち溢れ、次期皇太子として期待されるフリッツ。
君の母親と私の母が逆だったら、
今頃私が君で、君が私だったかもしれないのに。
いつの間にかそんな歪んだ嫉妬心が生まれた。
私は彼に会うたび意地悪をたくさんした。
私に気づいてほしい、こっちを見てほしい、
誰よりも近くにいたくて、
同時に誰よりも憎らしかった。
苦しむフリッツが見たい…。
「お兄様?どうしました?」
「うん…、私は本当に父に似て根が腐ってると思って。」
「良く分からないけど、楽しそうね?」
「とても。…楽しいことを思い付いたんだ。」
あの少女を私のものにする。
初めてできた大切な人を奪われた君がどんな顔をするか、見てみたい。
大好きな君を傷つけたい。




