布石
俺は迷っている。
ヴィルと改めて話をするべきか、黙っているべきか。
朝早くから執務室で仕事をしているが全く捗らない。
ヴィルのやり方は好かないが、間違っている訳じゃない。
国にとって必要な人材は国で確保するのは普通のことだし、二人の関係のあり方について最近知り合った俺が口を挟むのは余計なお世話だろう。
だけどリネアは泣いていた。
ヴィルを裏切れないせいで、彼女の望む自由を諦めることに。
リネアはヴィルの婚約者になったらどう思うんだろう。
今のスモーランドでは女性の社会的地位を上げ職業選択の自由を認めるのは正直時間のかかる話だ。国家体制が老人中心の政治家ばかりで根本を代えるのは簡単じゃない。ヴィルもそれを分かっている。
俺の婚約者になったら好きな職業につかせて自由にさせてやれるのに。リネアにとってヴィルの存在が大きすぎる。
話しても無駄…だよな。あの男は頑固だし、頭もいい。これからの事を考えるとしばらくこのままでいるのが最善だろう。
昨日のリネアとの夜、楽しかった…。目をとじると昨日の光景が甦る。
ダンスも思ったより筋がいいし、酔って赤くなって…。可愛すぎだろ、あいつ。
よく俺我慢できたよな、以前の俺ならとっくに手をだしていただろう。あいつが泣いてるとき、あと少しでキスしてしまいそうだった。
俺が昨日の出来事を5回くらい回想したところで部屋をノックする音が聞こえた。
「入れ」
「殿下、昨日はいかがでした?」
「ゲオルグ…知っていたのか。」
「ヴィッキーがあちこち殿下を社会見学に連れ回していましたからね。」
「姉上もたまには役にたつだろう?テントのお礼らしい。」
「…で?進展はありましたか?」
「楽しそうだな、お前…」
「はい、国の将来にも関わりますしね。」
「結論から言うと、何もなかった。」
「夜に一緒にいて?」
「ない。」
ゲオルグがため息をつく
「なんだそれは」
「情けない、とっとと進めてしまえばいいのに。」
「俺だってそうできたらいいが…いろいろ事情があるんだ。」
「事情ねぇ…。あぁ、そうだ、今日ここへ来た理由ですが。」
「からかいに来たんじゃないのか?」
「そこまで私も暇じゃありません。例のきょうだいを街で見かけたという情報が入っています。」
「まだあと二週間後くらいの予定のはずだが?」
「ええ…。でも何件か報告を受けています、まず間違いないかと…。」
「はぁ…。いよいよ来たか。」
◇◇◇
僕は今日ひとりで街に出かけた。
なんとなく頭を整理したくて、朝早く城を出た。
街のカフェで朝食を頼む。
僕はこの国の香ばしいパンが気に入った。朝から食欲だけはあった。
隣に座った物凄く綺麗な女性が地図を見ていた。長いブロンドの髪、エメラルドグリーンの瞳。この店の他の誰もがこの美しい令嬢を見ているのがわかった。
ヴィルの女装した姿を見た時と同じように胸がドキドキした。
ヴィルは可憐な美少女という感じだったけどこの人は大人の女性だ。
「なにか…?」
僕があまりにも見つめていたせいで気づかれてしまった。
「いえ、すみません。みとれてしまいました。」
「…面白い人だね。名前は?」
あれ、この人話し方…?発音も…外国の人かな?
「リネアです。」
「リネアね、私はユーラ、始めまして。」
「はじめまして。」
ユーラは先週からこの国に来たばかりで、まだ土地勘がないらしい。今日は美術館へ行く予定だからよかったら一緒にいかないかと誘ってくれた。
「行きます。僕もちょうど行きたかったから。」
「じゃあ行こう、よかった、本当は妹と行くつもりだったんだけどあの子は買い物しか興味がないから、今日は一人だったんだ。」
僕たちが訪れたのは世界有数の名画の所有量で有名な美術館だった。建物もとても立派だ。
ユーラは絵画や建築に造詣が深く、作品をいろいろな角度から解説してくれた。
「私はデューイのファンでね、彼の絵画や彫刻、版画の作品も集めてるんだ。」
「えっ!?個人で…?」
ユーラ、超絶金持ち?
「そう、親が貿易で成功して。君もいいとこのご令嬢のようだけど。」
「…ユーラって、見た目と話し方にすごいギャップがあるね。」
「人のこと言える?」
「確かに」
ユーラが笑った。
僕たちは見た目どちらも女性なのに話し方が男のようだったから、周りの人が聞いたらすごい違和感を感じただろう。
僕は逆にすごく心地よくて、初めて会った人なのに、すっかり心を許してしまった。僕を見て笑うユーラにドキドキした。周りの人たちもユーラの美しさに釘付けだった。
「じゃあ妹と待ち合わせの時間だから、ここで。」
「うん…。また会えるかな?」
「会えるよ、きっと」
ユーラが僕の頬にキスをした。
ユーラ…また会いたいな…。




