僕の視察
オスカルたちが二泊三日のキャンプに出かけている間、僕はフリッツとヴィルヘルム侯爵の研究室を訪ねていた。
侯爵の研究チームは遺伝子の研究を行っているみたいだけど、詳細は国家機密に関わることらしく詳しくは教えられないとの事だった。
フレーデル王国は古くから医学が進んでいて、我が国も多くの薬や医療器具を購入している。今回の留学で、病院や研究所について我が国に何か取り入れられないかフリッツに相談したところ、いろいろな機関を案内してくれることになった。
なんだかんだ言ってフリッツはとても親切で信頼できる人だ。
…リネアのこと以外は。
「今日はこれからゲオルグたちは外に飲みに行くらしい。そなたもついてこい。」
侯爵たちが連れてってくれたのは、どこかの屋敷の地下で音楽がものすごく鳴り響き、色々なライトが目まぐるしく光る不思議な場所だった。ある人は踊り、ある人は煙草を吸い、それぞれが違うことをしていた。
僕以外はみんなビールを注文していたが、僕はアップルジュースを注文した。
フリッツが何か話しかけてくる。音楽が大きくてよく聞こえない。フリッツは僕の耳元で大きな声で言った。
「そなたは真面目だな。俺が14でここに来たときは、こっそり飲んでいたぞ。」
フリッツが笑う。
僕は知らない世界に来たみたいだ。みんなフリッツに普通に話しかけて、一緒に踊ったり騒いだりしてる。女性も同じように大声で笑って、怒って、身分とか、性別とか関係なくみんな平等に見えた。
ヴィルヘルム侯爵は令嬢に人気があるようでたくさんの人に声をかけられていた。
僕も酔った令嬢たちに声をかけられ一緒に踊る羽目になって、酒を強引に飲まされそうになったところでフリッツが止めに入ってくれた。
「次は気をつけろよ。たまに薬を使って強引に持ち帰ろうとするとんでもない女もいるからな。」
「…次もあるんですか?」
「そなた次第だ。俺はこういうのはすでに飽きた。たまに付き合いでくるが、女と後腐れない関係を持つならうってつけの場所だぞ。」
「…貴重な情報ありがとうございます。」
「そなたは真面目で純粋すぎる。綺麗事だけでは物事は進まん。女と遊べとは言わないが、いろいろ経験するべきだ。」
「フリッツ…」
フリッツが遠くに感じた。なんでこんなすごい人と同じ人を好きになってしまったんだろう。
帰りは馬車で二人で帰った。
「フリッツ…」
「なんだ?」
「どうしてリネアだったんですか?」
「…俺にもわからん。」
「あんな、髪型も服装も少年みたいなのに…。」
「そなたこそ、死んだのがリネアでオスカルが生きていたら、オスカルに懸想したか?」
「…どうでしょう。オスカルとずっと一緒にいたかったのは間違いないんですが…。僕は、オスカルとずっと一緒にいるためにリネアを利用しているのかもしれない。」
「そなたらの関係は複雑だな。」
「あなたの好きな人がリネアじゃなかったら、僕はもっとあなたに近づけたのに。」
「そうだな。」
フリッツが笑って僕の頭をポンポンとした。
「俺はあの髪型も服装も似合っていると思う。短毛種の方が好みだからな。」
「…」
「そなたはオスカルが好きなくせに、リネアの髪型とか服装にケチをつけるとか、おかしいだろ。」
「だって、リネアは女性なんです。なのに…。」
「リネアはリネアだ。そなたは自分の枠にとらわれすぎだ。そう言えば…婚約してきたのか?」
「…秘密です。」
「ふうん?」
失敗したこと、見抜かれてるな…。恥ずかしくなる。
僕はリネアの14歳の誕生日になる前、公爵夫妻の元を訪ねて婚約の了承をいただくつもりだった。皇太子の僕の依頼だから当然良い返事をもらえると思っていた。
それなのに
「大変嬉しいお申し出ありがたく思います。両親の我々はお受けしたいと思います。ただし、本人に直接聞いて了承を得てください。あれは、あの通り普通の令嬢ではないので、親が良かれと思って勝手なことをすると後々面倒なのです。」
と公爵に言われてしまったのだ。
僕の話を聞いたフリッツはバカ笑いした。
「よかった、内心、正直焦ってた。…そなたも正直だな。俺に話すなんて。」
「何故かフリッツには嘘がつけないんです。」
「…お互い、がんばろうな」
…僕はどう頑張ってよいか分からない…。




