出発
「そっか、いよいよ出発か。」
授業の後、度々カールがヴィルの部屋を訪ねてくるようになった。僕がいない時も二人で菓子を作っているようで、いつの間にかお互いをファーストネームで呼ぶようになっていた。
二人とも数学や音楽が好きらしく、話が合うらしい。最近はカールの影響でヴィルはギターをひきだした。
「うん、もう少し時間があると思っていたけど…。」
「寂しくなるな。」
「カールはいっぱい友達いるじゃないか。」
「そうだけど、話が合う奴はそんなにいないからな。どれくらい行くんだった?」
「予定は半年。」
「そうか…」
カールは寂しそうだ。
「リネア」
「ん?」
「オスカルの話…ヴィルに聞いたか?うちの親の話」
「聞いたよ」
「俺の事、避けないでいてくれたんだな。取り返しのつかない事したのに。」
「いったよね、カールを信じるって。あれはカールがしたことじゃない。自分の身内の失態を打ち明けて、今もこうして私たちに協力してくれてる。それだけで十分だよ。」
「優しいな…」
カールが僕の肩に手をかけようとした瞬間ヴィルがその手を払いのけた。
「優しいからって、気安くリネアに触らないでよ。」
「ヴィルは本当にリネアの事になると心が狭い。大体俺には心に決めた人がいるんだ、安心しろ。」
「えっ?カール誰か好きな人いるの?」
「…俺の完全な片思いだ。外国にいるし、身分も違うけど…。」
それってまさか…ここにいる人?!
ヴィルもすごく嫌そうな顔をした。
◇◇◇
場所は変わり、フレーデル王国のフリードリヒの部屋
殿下が嬉しそうに写真を眺めている。
「嬉しそうですね。」
「あぁ、長かったからな。やっと会える。」
「たった半年で大袈裟な…。」
「うるさい、毎日会っていて、いきなり半年会えなくなったんだぞ?どれだけ辛かったか…。」
「はいはい。…お二人は王族の寄宿舎に入られるのですか?ヴィルフリート様はもちろんですが…。」
「当たり前だ。せっかくこちらに来るのに離れたら意味がないだろう。公爵の娘だ、国賓待遇も問題なかろう。」
やれやれ、普段は皇太子として冷静に行動する殿下がリネア様のことになるとまるでこどもだ。
スモーランド王国から帰国後、殿下はまったく他の令嬢と遊ばなくなった。以前はご友人に合わせ出かけていたのに。それほどリネア様は特別らしい。
「部屋も俺の隣にしたいくらいだ。ヴィルフリートは別館にして。」
「…そこは諦めてください。それよりも…。」
「…はぁ。それよりも、だな。よりによってあの二人まで留学してくることになろうとは。フェルセンより聞き付けたか。」
「可能性もあります。お気をつけください、殿下。」
「分かっている。あれらはいくつになったんだ?」
「ミハイル様が16、アリーナ様が14だったかと。」
「俺と同じくらいなのかあいつ…。はぁ、めちゃくちゃ憂鬱だ。」
リスラ共和国のあの二人がフレーデル王国に来る。
その知らせを受け取ったのは先月。リスラ共和国と我が国は繋がりが深く、縁を切ることができない存在だ。国の規模はこちらが大きいが、リスら共和国の近年の経済成長は目覚ましく、すごい勢いで世界中に影響力を強めている。その国の大統領の子女が我が国に来るというのだ。嫌でも無下にはできない。
「せっかくリネアが来るのを楽しみにしていたのに気分が台無しだ。」
「リネア様がいらっしゃるのは変わりませんよ。今回の滞在で進展させてくださいね。」
「リネアは色事に全く疎いからなぁ。それがいいんだが。」
殿下はエリザベスの頭を撫で抱き上げた。
「早くこうしたい…」
エリザベスは殿下の愛犬で殿下にとても懐いている。
エリザベスが殿下の膝に飛び乗りペロペロなめはじめた。
「…そこまでは期待できませんよ。」
「…努力する。」




