フリッツの帰国 そして
「フリッツ帰っちゃったね。」
「うん、あの人がこのキッチンにいないなんて変な感じ…。」
「あ、食洗機来週届くって。」
「まさか本当にくれるとは…。」
「労働の対価だよ。」
「…いくらか知ってるの?」
「さあ?」
「…聞かない方がいいね。」
コーヒーと焼き菓子を食べながら久しぶりにヴィルと2人でのんびりしている。
今日はアップルパイを焼いた。
「よかった、ヴィルも一緒に留学に行けて。」
「僕が行かなくてもどうせ行ったくせに。」
「だってこんなチャンスもう来ないかもしれないからさ。国費で留学なんてありがたいよ。」
「とりあえず、次の6月までに2学年分の単位を取りきらないとね。なんとかなりそう?」
「多分大丈夫、ヴィルはもちろん大丈夫だよね。」
「うん、7月にフレーデルに引っ越しして、7月から8月半ばまで語学実習、スクールは8月終わりスタートだからね。本来、来年4月から寮に入るのが普通だけど、僕たちは準備もあるから家から通いで6月まで学ぶことにしよう。」
「わかった。楽しみすぎる!」
「オスカルは何の勉強したいの?」
「全部!特に工学とか建築とかも興味あるし、フレーデルは機械技術も盛んだからいろいろつくったり…。」
「令嬢って機械技術の授業うけれるの?うちの国ならできないよ。」
「…いっそオスカルとして行くのはどうだろう?」
「…」
「ヴィルは?何の勉強したいの?」
「僕は医学、薬学、科学に興味がある。ヴィルへルム侯爵は医学博士課程にいるらしいよ。」
「ゲオルグさんかー、頭良さそうだもんね、あのひと。」
「僕はこの国に必要なものは一通り学びたいんだ。」
「えらいなー。」
僕はヴィルの頭をよしよしした。
「そういえば、フリッツに最近やたら頭を撫でられてたの思い出した。」
犬のエリザベスとは無事再会できただろうか?
「あまり気安く人に触られないよう気をつけてよ、フレーデルは世界中からいろいろな留学生が来るんだから。」
「うわー楽しみっ!語学の勉強父上に教えてもらおうかな!…あ、そうだ。」
「何?」
「…両親に気づかれてた。僕がオスカルだって。」
「え…?」
「この前、留学の話がでた時にね、話してくれたんだ。」
「そう…良かったね。」
「うん」
僕はヴィルの肩に寄りかかった。
たくさんの言葉を交わさなくてもヴィルは僕の気持ちをちゃんと分かってくれる。
「…フェルセンの父親さ、君が死んだ日に泣いてたんだって…。」
「え」
「言うことを聞かないと息子のカールを殺すと脅されたらしいよ。」
「カールが言ってた?」
「うん…。」
「そっか…。脅したのリスラ共和国の人かな?」
「可能性が高い。」
「リスラ共和国の人も留学に来たりするの?」
「…可能性はあるってフリッツに聞いたよ。フレーデル王国はリスラ共和国が王制だった時代に一時的に占領下に入ったこともあって、現在も交流があるみたい。」
「そうなんだ…。」
「あの国はさ、知ってるかも知れないけど一昔前の国王がクーデターにより失脚して、国が解体したんだ。今は表向き共和制をとっているけど実質ロマノ家が政治の実権を握っている状態だ。」
「ロマノ家…。」
「ニコライ・イヴァノ・ロマノ、現大統領。彼は何人かこどもがいるみたいだけど、そのうちのミハイルという息子と、アリーナっていう娘にフリッツが何度か会ったことがあるっていってた。」
「へえ…」
「他人事じゃないよ。もしかしたら僕たちも顔を合わせることになるかもしれないんだから。」
「気を付けるよ」
「…無理だろうからフリッツとなんとかすることにする。」
「僕よりフリッツを信用するとか…」
「君は君の良さがある。それを活かすのが一番だよ。」
「変なまとめ方するな!」
◇◇◇
留学の準備、学校の授業の単位取得であっという間に半年が過ぎた。ヴィルも僕も14歳になって、頭一つ分くらい背の高さが違ってきたのが悔しかった。僕も少しは伸びているのに。
いつの間にかヴィルは声変わりをして、声が低くなった。
僕は、少しずつ女性らしい体型になってきて、どんどん自分がオスカルだった頃から離れていくのが怖くなった。




