最後の週末
フリッツのスモーランド最後の週末、僕は通訳として水力発電のダムの見学に同行した。
今もなお、温暖化の影響で世界各地に様々な被害がでている。
先人達が化石燃料を燃やし続けた結果、気温が上昇し、自然災害が増えた。食料も育ち憎くなり、水の利権を巡り争いが各地でおこっている。これ以上の温暖化を食い止める為、先進国で国際条約を結び、化石燃料の使用の完全撤廃、エネルギー利用の削減の目標を掲げた。昔はクルマという乗り物に個人が乗っていた時代もあったようだが、国際条約に加盟している国々は原点回帰し、環境負荷の小さい暮らしをすることが義務化された。だから、生活に必要な家電を覗き、エネルギー負荷の大きい移動は馬車や水素エネルギーを使ったバスを利用している。海を越える場合は船を基本利用し、どうしても飛行機を使う場合は環境税をいう莫大な税金を払って乗らなければならない。
我が国はもともと資源が少ないこともあり、水力発電、風力発電に早くから力を入れ、最近はバイオマス発電も取り組み始めた。
フレーデル王国も、脱原子力を目指しているようで、それに変わる代替エネルギーを模索しているらしい。
「ふむ、なかなか興味深かった。エネルギー問題は避けて通れない重要課題だ。我が国も環境先進国だが、なかなか思うように成果があげれていないのが現状だ。この国の者は環境への意識が世界一高いと聞いていたが今回の滞在でそれを目の当たりにした。」
まったくこの人は…たった15歳でどこまで考えているんだろう。
すごすぎる。
「リネア、このあと予定はあるか?」
「ううん、ないよ。」
「では、今日は俺に付き合え。最後の休日だ。」
「わかった。」
フリッツと僕はこの街で一番大きな公園に来た。
ほんの一瞬の陽の光が差し込む時間。紅葉が美しい。
「もうすぐ雪が降りそうだな。」
「うん、降るよ。」
「スキーはするか?」
「ううん、スケートはするけど。」
「では、今度うちの国に来たら連れていってやろう。」
「嬉しい!」
僕たちは芝生の上にブランケットを敷いて、そこでお茶の時間にした。
スモーランドの人はこのお茶の時間をとても大切にしている。
「リネア…」
「ん?」
「…お前、両親に…。」
「あっ!!それ!今日ずっと言おうと思ってて!!」
「ああ、聞いたか。」
「ありがとうフリッツ!」
思わずフリッツにしがみついた。
「リネア…」
「僕嬉しくて泣きそうだよ、なんて感謝したら…。」
「来てくれるのか?」
「当たり前じゃないか!」
フリッツも僕を抱き締めた。なんだか落ち着く匂いがする…。
「よかった、来てくれるとは思ったが、もし断られたらどうしようかと思っていたんだ。」
「断る訳ないだろ、嬉しすぎるよ。」
「危険な目に合わせぬよう気を付けるからな。」
「うん。」
フリッツが僕を見つめる。その目が以前と違うと感じるのは気のせいだろうか?
「り、留学までの半年間ちゃんと準備しておくから。」
フリッツはまだ僕を抱き締めたままだ。
「フリッツ…?」
「このまま連れて帰りたい。」
「え?」ど…どうしちゃったんだ?
周りの人たちもこちらをなんとなくチラチラ見ている。
「離れたくない」
なんか心臓がドキドキしてきた。冷や汗も…。
「た、たった半年じゃないか。」
「…長い、そんなに待ちたくない。」
どうしちゃったんだ?この人…。
「小さいこどもみたいだよ?」
「まだ俺だって15でこどもだ。俺はリネアがいい。」
「か、帰ったらエリザベスがいるだろ?」
「そうだが、あれは犬だろう?馬鹿かお前は」
…めちゃくちゃだ!
僕はフリッツの腕を振り払った。
「リネアの阿呆、帰るのが寂しいなんて言って嘘じゃないか。」
今度は横を向いて不貞腐れた。
なんなんだ今日のフリッツは…。
「フリッツ…どうしちゃったんだよ?おかしいよ?」
「俺だって自分が分からん。おかしいのは承知だ。」
フリッツの顔が真っ赤だ。
僕はフリッツの頭をくしゃくしゃになでた。
「ははっ!可愛いな。」
「男に可愛いとか…」
「嬉しいよ、たった1ヶ月でこんなに仲良くなれると思わなかった。それに、すごく尊敬してる。いっぱい相談に乗ってくれて、僕の将来を変えてくれた。ありがとうフリッツ。」
僕は、握手の手を出した。
「リネア…」
フリッツは、笑って少し寂しそうに僕の手をとり、手の甲にキスをした。
「フリッツ…。」
「半年後、楽しみにしてるぞ、勝負はそこからにする。」
そう言ってフリッツは僕に不敵な笑みを見せた。
「勝負…。」
「あぁ。ライバルもいろいろでてきそうだがな。」
「待ってるぞ、リネア」
フリッツの滞在はあっという間だった。
いきなり来て僕たちを巻き込んで、そして僕たちに新しい風を吹き込んでいった。
フリッツがいなくなったカールソン家がなんとなく寂しくなった。
僕はフリッツに会えるのが楽しみになった。




