僕と両親 2
「父上…今、なんて?」
帰宅した僕を呼び止めた父が、書斎に呼んだ。母も一緒だ。
「フリードリヒ殿下がお前にフレーデル王国への留学を薦めてくださった。お前の将来にきっと役に立つはずだから、と。」
「フリッツ…」
あぁ、だからさっきフリッツはあんなこと言ったのか。
'きっとすぐ会える、そなたら次第だがな'
そなたら…
なるほど
ついでは僕か。面白い…。
「フリードリヒ殿下は先見の明のある方だ。これからのこの国の為にも、私は留学を薦める。先日スクールでお前と殿下がいるところを見かけたが、オスカルやリネア以外の者と打ち解けているお前をみてびっくりしたぞ。この短期間に殿下とお前があのように親しくなれるとはな。」
ん?いつ見ていたんだ?まさか…ちょくちょく僕を見にスクールに来ているんじゃ…。
「ヴィルフリート、私はそなたの祖母が怖くてそなたに母親らしいことをしてあげられませんでした。私は、あなたがいつも無表情だったことが本当に不安で仕方なかったのです。オスカルという友人を得て、そなたがこどもらしい表情を見せてくれた時、母はどれだけ嬉しかったか…。」
母が泣いている。そういえば、友人をつくるよう父に頼んでくれたのは母だったな。
「泣かないでください。母上のおかげでオスカルに会えたのです。」
私は母の背中を擦った。母に自分から触れたのはこれが初めてかもしれない。僕は、こんなにも両親に思われていたんだ…。この年になって気づくなんて…。
母が僕の頬に触れる。
「そしてまたオスカルを失って…とても心配していましたが、スクールに入って随分と元気になったようで安心しました。」
「リネアのおかげです。」
「そのようですね、あのきょうだいはあなたにとって大切な方たちなのですね。」
「僕がまともに人間らしい感情を失わずに成長できたのはあの二人のおかげです。」
「ヴィルフリート、せっかくの機会だ。他の国のご令嬢とも交流してみなさい。フレーデル王国にはたくさんの国から良家のご令嬢がいらっしゃるからな。」
「母は、反対です。寧ろリネアを他の者にとられぬよう気をつけなさい。」
「…母上に従います。」
「父上、母上、お心遣い感謝します。僕を留学させてください。殿下の元で、この国の将来に役立てるようたくさん学んできたいと思います。」
「うむ、よく言った。頑張ってこい。」
「たまには連絡してくださいね。」
フリッツ…君は、なんて人なんだ。
本当に、僕も君に会えてよかった。
リネアのことを譲るつもりはないけど、
君に敵うくらい成長したい。
僕もこの国の役に立ちたい。
君に会えたから、僕も自分のやらなくてはいけないことがはっきりわかったよ。
次の日、僕の私室に何故か男が三人いた。
「フリッツとヴィルへルム侯爵はともかく、何故君がここに?」
「カールは俺が誘ったんだ、細かいことを言うな。」
「フリッツ…、一応ここは王族と側近以外入れないようになっているのです。」
「リネアも来てるじゃないか」
「リネアは殿下のお気に入りだからな。」
「フェルセン…帰れ。」
「俺は殿下に誘われたんだ、あなたの指図は受けない。」
「くっ…。ここは僕の部屋なのに。…そなたには何も教えぬからな。」
フリッツが僕の頬を引っ張る。
「ケチ臭いこと言うな。俺がいなくなったらお前たち二人が協力しないと問題解決が進まぬのだから、嫌い同士でも我慢しろ。ほら、今日はルッセブッラの日だ。早く始めよう。」
何故か男4人でルッセブッラを作るはめになるとは。
気持ち悪い絵面だ。ルッセブッラはサフランの入った菓子パンで、スモーランドのお茶の時間にあわせて食べられる物のひとつだ。
フェルセンは思った以上に手際が良く、フリッツが面倒だとか疲れたと駄々をこねる度に代わりに面倒をみていた。リネアやオスカルへの感情を抜きにしたら普通に良い奴かもしれない…。
確かに、フリッツの言う通り、問題解決の為にはお互い歩み寄る必要はあるだろう。
出来上がったルッセブッラをみんなで食べる。
「…美味しいです。ヴェルナドッテ殿下にこんな特技があったなんて、正直驚いた。すごいな、楽しかった。」
「…そなたも、なかなか筋が良い。」
「気持ち悪いぞお前たち、男同士で照れるな!」
「殿下…静かに見守りましょう…。」
ヴィルへルム侯爵は今にも吹き出しそうだ。
「…また来てもいいか?」
「…構わぬ。」
この日より、僕はフェルセンと度々二人で菓子や料理をつくるようになった。




