ヴィルとの再会
12歳の誕生日を迎えた日、僕はリネアとして生きることになったらしい。
誕生日パーティーは行われることなく、家族3人でオスカルのことを偲んだ。
オスカルの葬式の日、国王夫妻をはじめたくさんの人が来てくれたけど、僕の親友ヴィルはこなかった。ヴィルの妹のユリアがひどく泣いていた。僕のこと気に入って懐いてくれていたもんな。
僕は、僕が死んで棺の中にいることがまだ理解できなかった。
みんなが泣いていたけど僕は泣けなかった。
リネアがいない、
そして、それを知るのは僕だけだった。
リネア、僕はどうしたらいい?
君に何をしてあげられる?
君が最後に残した言葉通り、
僕は幸せになれると思う?
君がいないのに。
僕もいないのに。
僕は、どう生きたらいい?
父は跡取りを失い、そのショックから家に戻らないことが増えた。仕事に没頭することでオスカルのことを思い出さないようにしたかったんだと思う。リネアがオスカルに似ていたことも、辛かったのかもしれない。
元気だった母も度々体調を崩すようになった。
リネアは、最愛のオスカルを失ったショックから頭が混乱しておかしくなり、話し方まで男のようになってしまったと周りのものから思われた。僕は自分がどう振る舞っていいかわからずにいた。男として12年間も生きてきて、今さら女になるなんてどうしても無理だった。
僕は少しずつ体調が回復して、いつのまにか外に出られるくらい健康になっていた。両親はオスカルのくれた奇跡と喜んでくれた。
13歳の誕生日は3人だけでささやかにお祝いをして、父は僕にドレスを、母はひらひらしたレースのついたエプロンをくれた。
父も母もこの頃には元気を取り戻し、前の生活に戻りつつあった。
「リネアが元気になってオスカルみたいになっちゃったわね」
「嫁の貰い手が心配だ」
両親にとっては別の心配が増えたようだ。
13歳になったら、貴族はパブリックスクールに入学することが決まっている。このままでは人前に出せないと両親に泣きつかれ、僕は人前では「私」と自分を呼ぶように気を付けた。
◇◇◇
ヴィルに再会したのは僕が死んでから約一年後、オスカルが死んで一周忌を過ぎた頃だった。
「こんにちは、殿下」
ヴィルのことを愛称で呼ぶのは本人に許されたオスカルだけだった。
リネアは僕の妹という扱いでしかなく名前を呼ぶことを許されていなかった。
久しぶりに会ったヴィルは出会った頃を思い出すような冷たい目をしていた。かなり、痩せた気がする。
「久しぶりですね、リネア・エステル。お兄さんのこと、お辛かったでしょう…。」
あぁ、そうか。唯一君が心を許した親友だもんな。君も、相当辛かったはずだ。
「僕は、オスカルが死んだ今もそれを受け入れることができません。お葬式にも参列できませんでした。正直、オスカルに似た君に会う勇気が今日まで持てなかったんです。」
「気にしないでください。あの…分かりますから。」
僕はここにいるよ、だからそんな顔するなよ!
そう言ってやれたらどんなによかったか。
でも僕はもうここにいない。君と一緒に夜遅くまでくだらない話をしたり、ふざけあったり、愚痴を言い合うこともできない。
ヴィルとずっと一緒にいたかった。オスカルとならできたことがリネアにはできない。
「…君には分かりませんよ。僕の気持ちは…。」
ヴィルは鋭い目で僕を睨み付けた。
「君が我が儘を言ってあの日に帰らなければオスカルは死なずにすんだんだ!僕にはオスカルじゃないと駄目なのに!!…なんで死んだのが君じゃなくてオスカルなんだ?!君だったらどんなに…。」
「何言ってんだよ、おまえ?!」
ヴィルが僕をぎょっとした目で見た。
…しまった。
ついオスカルの口調がでてしまった。
「…た、大変失礼いたしました…。」
「今の…」
ヴィルが僕を凝視している。
「あ…あの殿下っ。発言をお許しいただけますか?」
僕の横にいた侍女のアンがヴィルの前に膝まづいた。
「なんだ?」
「リネア様はオスカル様を亡くしてから記憶が曖昧で時折このようなオスカル様のような話し方をなさるのです。無礼をお許しいただけないでしょうか。」
「あのっ殿下…、申し訳ありません。侍女の言ったように時々混乱するようで…。」
やーばーいー、
冷や汗がでてきた。
こいつって、僕のことに関して妙に勘がよいというか、すぐに嘘に気づくんだよな。
まさか現実的に考えて僕が妹に生まれ変わったなんて思うわけないだろうけど…。注意しないと。
「…こちらこそ、大変不快な発言をしてしまったこと、お許しください。リネア・エステル、これからもオスカルの親友である僕と会っていただけますか?」
これは…これはまずい。絶対何か企んでる。
こいつが自分からこういうことを言うなんて普通じゃない。
「そ…そうですね。私の体調が回復しましたら…。」
「殿下、最近リネアさまはすっかりお元気になられましたのよ。食べ過ぎてお腹を壊すくらいで。」
「アン!…は…恥ずかしいからやめて!」
食べ過ぎとか余計な情報いらないから。ほら、またヴィルの目がひかってる。
「それでは、次回は王室御用達のお菓子を持って伺うとしましょう。」
来た時とは別人のように穏やかな顔に戻ったヴィルは僕の手に口づけを落として部屋を出た。
「まぁ!まぁ!殿下ったら!リネア様のこと…。」
「冗談談やめてよ!!そんな訳…。」
汗がとまらない。
僕がヴィルに口づけされたすぐに手を洗ったのは言うまでもない。
気持ち悪い…。




