カールの決意 1-1
今日、授業後にフレーデル殿下の私室へ伺うことになった。実はこのことは父には言っていない。
俺は今も決心がつかない…。
地学の授業がおわるとリネアが声をかけてきた。
「フレーデル殿下に会うんだって?」
「リネア」
知っていたのか…。
「殿下が楽しみにしていたよ。」
「…そうか、リネアも来るのか?」
「ううん、行かないよ。」
「そっか。」
リネアは俺の幼なじみの双子の妹。12歳になる前に、兄のオスカルと馬車で移動中暴漢に襲われ兄を失くした。…表向きは。
だが、俺は知っている。あの事件は、すべて仕組まれていたことだと。しかもうちの父がそれに関わっていたことも。
それなのに、俺は自分の将来が潰されるのが怖くて本当のことを言えないでいる。オスカルは大切な友人だったのに。
「…フレーデル殿下に会うのは緊張するな。」
「ズケズケ言うからね、悪い人じゃないけど。」
「…リネアから見て殿下はどんな方?」
「一言で言うとすごい人、かな。」
「すごい?」
「うん、いつも自分の国を良くすることを考えてて、自分で行動できる人。そういう所、憧れる…。」
「好きになったとか?」
「好き、だよ。」
「えっ?」
何故か少し胸がチクリとした。
「ああいう人が兄にいたらって思う。なんでも相談できそう。」
「なんだ…そういうことか。」
少しほっとした。
「カール」
「ん?」
「カールも、そうなんでしょ?」
リネアが俺の目を真っ直ぐ見る。オスカルと同じ目で。
「相談に行くんでしょ?私…信じるよ、カールを信じる。」
「リネア…」
まさか、知ってる…?
「前言ってたよね?何があっても信じてって。だから、信じる。」
「リネア…俺、できるかな?」
「うん、カールならできる。そして、フリッツを信じて。きっと君の力になってくれる。」
「ありがとう、俺、…行ってくるよ。」
なんか、ふっきれた。
リネアがどこまで知っているのか分からないけど、
俺の将来が、家族がどうなるか分からないけど、
俺はこれ以上自分に嘘をつくのはいやだ。
オスカルやリネアを裏切るのもいやだ。
部屋をノックする。
「こんにちは、フェルセン君。先日はお招きありがとう。」
側近のヴィルへルム侯爵が出迎えてくれた。この方は父の上顧客で、事件の日に国賓として滞在していた方だ。殿下もこの方も、父や背後の組織が裏で何をしているか知らない。
「こんにちは、ヴィルへルム侯爵。こちらこそ先日はありがとうございました。」
「どうぞお入りください。」
中から声が聞こえる。いい匂いもする。
「おい!今度このレシピを教えろ!めちゃくちゃ旨い!」
「…ヴィルへルム侯爵、殿下は何を…?」
「最近菓子作りにはまっておりまして。」
「はぁ…。」
「殿下のご友人が料理が得意でして、対抗意識もあるようです。」
「おぉ、フェルセン、よく来たな!」
軽い…。殿下ってこういう人だったのか?
「まぁ、座れ。リリアナ!お茶と菓子の用意を…いてっ!お前俺の足を踏むな!」
「…殿下、リリアナ様は側使いではありませんよ。」
「細かい事を気にする奴だ。」
心なしかリリアナ様が怒ってらっしゃるように見える…、相変わらず綺麗な方だ。
「で?本日参ったのはどんな用件だ?リリアナに会いにきたか?それともまた珍しい商品を用意したか?」
オスカル、リネア…
勇気を出すんだ、
迷うな
「今日はフレーデル殿下と侯爵にお話があって伺いました。」




