殿下と私
私はゲオルグ・フォン・ヴィルへルム。
6年前から私は殿下の側近として家庭教師をしながら側に仕えている。
殿下は幼少より利発で、一を聞いて十を知る少年だった。真面目で努力家、曲がったことが嫌いな真っ直ぐな人格の持ち主である。信頼したものには気さくに振る舞い、優しく思いやりもある、私の自慢の殿下だ。
その殿下が、昨日あたりから様子がおかしい。
この国に来てすぐに、殿下はカールソン公爵のご令嬢、リネア・エステル様を気に入られた。
普段は令嬢を気に入られることなど滅多になく、唯一心を許されているのが姉のヴィッキーと、いとこのメアリー様くらい。
あとは、遊びで付き合うか適当にあしらうか、とにかく女性に関心がない。
そんな殿下が、出会った初日に名前を愛称で呼ぶことを許したご令嬢がリネア・エステル・カールソン様だ。
リネア様はなんというか…私の知っている令嬢とは程遠い方だった。
見た目は可愛らしいが、髪は短め、服装も飾り気がなく、言葉遣いも振る舞いも少年のよう。
そんなリネア様を愛犬のエリザベスに似てると言った。殿下が溺愛しているダックスフント。
私は殿下がこの方に魅かれていくと思った。
普段は仕事に追われ忙しいため、効率重視、必要最小限にコミュニケーションをとる殿下がリネア様のことを気にかけ、部屋を訪ね世話を焼くようになった。
そして昨日昼、リネア様の部屋から出てきた殿下は脱け殻のようになっていた。何があったか教えてくれなかったが、殿下にとって何か衝撃的なことがあったらしい。
今日はさらにおかしかった。夕食の際リネア様の横に座り、いたずらしたりからかったり、リネア様にデザートを食べさせている姿は見ているこちらが赤面するくらい分かりやすい態度だった。
殿下はリネア様に恋をした。
6年間一緒に側にいて初めてのことだった。
殿下に大切な人が現れたらいいのに、とずっと思っていた。
義務感でなく愛する方と結婚して欲しいと思っていた。
だから私は、殿下の初恋を応援してあげたい。
「よかったですね、殿下。」
「…何がだ」
「私は嬉しいです、殿下に好きな女性ができたこと。」
「…全然良くない。既に予約済みだ。」
ヴェルナドッテ殿下の事ですね。
「リネアは俺のこと、友人くらいにしか思ってないしな。ここに滞在するのもあと少し。ヴィルのことがなければ連れて帰りたいくらいだ。」
「良い案がありますよ」
私は思い付いた案を殿下に伝えた。
「ふむ、悪くない。話がまとまり次第父親に手紙を書く。
…それから国王夫妻とリネアの両親にに面会の連絡を。」
「承知しました。」
殿下の顔が本当に嬉しそうだ。こんなあどけない表情があったなんて。いつも年齢よりずっと大人びて見えるのに。
「一つ伺ってもよいですか?」
「なんだ?」
「リネア様のどこに魅かれたのかと…」
「…それが俺にも全く分からん。」
「…はい?」
「分からないんだ。…確かに顔は可愛いし、性格もよい。おっちょこちょいでお調子者、すぐに人を信用する間抜けだし、その癖無鉄砲でハラハラさせられる。」
「…十分伝わりました。」
「お前、楽しそうだな。」
「はい」
「…リネアの話をしてたら会いたくなってきた。」
「恋心を自覚した殿下が夜にお相手の部屋を訪れるとか、危険すぎます。何かあると国際問題に発展するので我慢してください。」
「…確かに何もしない自信はないな。こうなると同じ屋敷にいるのがむしろキツイな。」
「当初の予定通り城に移られますか?」
「移らないに決まってる!少しでも一緒にいたいからな。週末の視察はリネアを通訳に伴うようカールソン公爵に依頼してくれ。それから、ガゲナーの食洗機の手配も頼む。」
「承知しました。」
殿下が可愛すぎる。こんな可愛い殿下を早くヴィッキーに見せてあげたい。




