皇太子の部屋にて 3
次の日の授業後、オスカルは僕の部屋に寄ってくれた。
僕は書類の整理を一旦やめた。
「昨日はごめん。…君を傷つけるつもりじゃなかったんだ。」
「…もういいよ、フリッツにも事情を聞いたし。カールの家に行ってきたんだろ?」
「うん。どうしてもこの目で確かめたいとフリッツに言ったら…ああいうことになって。」
「…すごく、綺麗だった、お前。」
顔が真っ赤だ。ちょっと顔をそらして恥ずかしそうにしている。
「なんであの人がお前なんだよ…。僕の初恋…返せ。」
初恋…?
「…何て言っていいか分からないけど。…ねぇ、君が望むならあの格好またしようか?」
「だめ!」
「なんで…?」
「だって、…どうしたらいいか分からなくなる!」
「あの顔で迫られたら、とか?」
「…駄目!…絶対だめ!!コ、コーヒー入れてくるっ!」
オスカルは小走りでキッチンに逃げて行った。
…可愛すぎる。早く僕にもあんな顔を見せてほしい。
「フリッツ、カールのお父さんと取引契約したんだって?」
「うん、事の真相を暴くにはもっと奥に入りこむしかないってことになってね。まずはこちらを信用させて、リスラ共和国の者と接触する機会を待つことにしたんだよ。時間がかかるけど、待っててね。」
「うん、分かった。」
オスカルの入れたコーヒーを飲みながら、僕は思ったことを話し始めた。
「僕さ、フリッツが本当にすごいなと感心してて…。」
「そうだね」
「僕もさ、あの人みたいに国のことを考えて、自分でなんでもやってみようと思って…。」
「それで女装。」
「…言わないで。」
僕は顔を隠した。
「ははっ!!冗談だよ、…嬉しいよ。」
リネアは嬉しそうに笑った。
「僕もさ…、外交官になりたいんだ。」
「え?」
「父と同じ外交官に。女性初の。この国はまだまだ女性の社会的地位が低いだろ?だから、この国をいろいろ変えてくれるよう、ヴィルに期待してる。」
今さらっとすごいこと期待された…。
「じゃなかったら、女性が活躍できる国に行っちゃうからな!」
いたずらっぽく言ってるけど、オスカルは本気だ。
「もう迷わないよ。僕はリネアのまましたいことをする。外国にもたくさん行って、成りたい職業につく。女性であることに縛られたりしない。」
真っ直ぐなオスカルの瞳。
君を繋いでおくのはやはりそう簡単にはいかなさそうだ。
でも僕も君を手放したりはしないから。
僕も、僕のやり方でこの国の国王になる。
その為に、フリッツの言っていたネットワークの話や、国内の課題解決を進めていきたい。
「一緒に、これからもいてくれる?」
「君が僕のポジションを用意してくれるなら。職権乱用は君の得意とするところだろ?」
「…外国にいけて、外交の最前線に行けるように、だね?」
「うん」
「…努力するよ。」
オスカルが部屋を出ようとしたところに、今度はフリッツが訪ねてきた。フリッツもスクールに来て興味のある授業だけ受けているらしい。オスカルが通訳に同行することもあるらしく、本当に頭がいいと感心していた。
「あ、邪魔したか?」
「ううん、今丁度帰ろうとしたとこ。」
「ちゃんと話せたか?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう。」
「丁度いい、お前も参加しろ。俺と一緒に帰ればいいからな。」
「何?」
「…さっきフェルセンに会った。」
「…カール?」
「あぁ、あいつ、さっそく俺に声をかけてきた。」
えっ!?
「まさか…また会いたいっていうの本気?」
「…それもあるんだろうが、何か思い詰めてたぞ。」
「なんで…?」
「だから、またリリアナの出番だ。」
「いやだっ!」
「バカ、仕事だと思って諦めろ。」
「…何の話?」
「先日こいつ、フェルセンの屋敷に女装していったらフェルセンの息子に惚れられたんだ。」
「えっ!?カールに?!」
「あの息子、父親と違ってもう少しまともなんじゃないかと俺は思っているんだが…どこまで話ができるかだな。」
「カールはいい奴だよ。本当に優しい奴なんだ。」
「リネア、優しいのといい奴は違う。だいたいお前は人を疑うことを知らなさすぎる。」
フリッツはオスカルの頭をポンポンと触れた。
「すぐそうやって僕のことバカにして…。」
「誉めてるんだ。」
今度は笑いながら頭をなでた。
フリッツ…?
オスカルを見る目が今までと違う…?
しかも今、オスカルも自分の事「僕」って言った?
「とにかく、ヴィル。明日の授業後だ。支度しておいてくれ。」
「不本意ですが、…分かりました。」
「リネアは来るなよ、変に警戒されるといけないからな。」
「ちぇっ。」
フリッツはまたオスカルの頭をくしゃくしゃ撫でた。
「リネア、悪いけど先に帰ってもらえる?僕、フリッツと明日の話をしたいから。」
「わかった。じゃ、また何か分かったら教えてよ!」
「うん」
「リネア、夕飯迄には帰る。」
「うん、じゃあ待ってるように伝えるよ。」
「…何か言いたそうな顔だな?」
「それはフリッツのほうじゃないんですか?」




