フェルセン侯爵の屋敷にて 1-1
今日はフレーデル殿下がうちの屋敷にいらっしゃる日。
屋敷の者は朝から準備に追われていた。
見栄っ張りの両親は、食べきれないほどの料理を用意させ、服装選びに時間をかけている。
今日の父の目的はさらに顧客を増やすこと。フレーデル王国の殿下が顧客になればさらに箔がつくと鼻息を荒くしていた。
母の香水の匂いが強くてすでに頭が痛い。
昼12時ぴったりに殿下たちは到着して、父が最初に出迎えた。
殿下の他に父の上顧客である侯爵が来ると聞いていたが、もう一人、黒髪に青い目の美しい女性が馬車から降りてきた。仕草も美しい。
「ようこそ我が家へ。フレーデル殿下、ヴィルヘルム侯爵。…そちらの御令嬢は?」
「うむ、今日はよろしく頼む。今日は俺の側近と、俺のいとこも一緒だ。この者は、極度の人見知りで本当に慣れたものにしか口をきかないが、好奇心だけは人一倍でな。一昨日から俺の元に来ているのだが、今日珍しいものが見れると言ったらついてきた。恥ずかしがってろくに目も合わさないが許してくれ。」
「そうでしたか。殿下のいとことは、お美しいはずですね。さあ、中へお入りください。」
「初めまして、カール・アクセル・フェルセンです。お名前をうかがってもよろしいでしょうか?」
令嬢がヴィルヘルム侯爵に耳打ちをした。
「フェルセン様、リリアナとお呼びください、とおっしゃっています。」
「初めてまして、リリアナ様、ヴィルヘルム侯爵。」
…なんて美しい。陶器のように白い肌、整った顔立ち、こんなに可憐で美しい人を見たのは初めてだ。
リリアナ嬢と目が合うと、すぐに彼女は目をそらした。
本当に人見知りのようだ。
今日の食事はサーモンやハムなどのスモーランドの料理の他、フレーデル王国のソーセージや、ロマーナ王国の魚介類、オレンジやメロンなど、普段なかなか口に入らない珍しいものも並んだ。
「うむ、数日ぶりだがやはりうちの国のソーセージはうまいな。」
「そうですね、殿下。」
「こちらの食事ばかりで飽きてきたのでは、と思いまして。」
「そうだな、ありがたい。どうだ、リリアナ?」
「…」リリアナ嬢が殿下に耳うちした。殿下がうらやましい。
「リリアナも気に入ったようだ。」
デザートも用意していたが、殿下とリリアナ嬢は食べきれないと断られた。
侯爵だけが完食していた。
食事の後、父は客間に三人を案内した。
「おお…、これがその。」
「殿下、フェルセン様のところで扱う商品はすばらしいものばかりですよ。」
「いつもご贔屓にしていただきありがたく思います、ヴィルヘルム侯爵。」
「いつもヴィルヘルムからそなたの商品の話を聞いていてな、前から見てみたいと思っていたのだ。うむ、確かにすばらしいものばかりだ。…これはなんだ?」
「像の牙で作られた細工です。東洋にいる一流の職人が細工したものです。」
「美しいな、このようなもの初めてみたぞ」
手応えを得て高揚した父は、虎の毛皮や希少なワニやヘビの皮でつくった革細工など家にあるものを次々と披露した。
リリアナ嬢も興味深そうに見ている。
「これらはどこで縫製しているんだ?随分腕がいい。我が国でもここまでの精度が出せる職人は少ないな。」
「さすが、お目が高い。リスラ共和国ですよ。」
「リスラ共和国…」
「はい。リスラ共和国に東洋から一流の職人を雇ってきまして…彼らはこのような精巧なものを作る者が得意のようです。」
「なるほど…。」
「我が国とリスラ共和国は表立った国交があまりないので、このことは内密にお願いします。」
「うむ、承知した。」
「よし。気に入った。フェルセン侯爵、俺も顧客のリストに加えてもらえるか?取引したい。」
「かしこまりました。」
父が膝をついて深々と礼をした。
この殿下はこの商品がどのようなものか知らないようだ。知ったら何と思うことだろう…。
「スモーランド王室公認の品か。品質は折り紙つきだな。」
殿下は王室発行の品質保証書を眺めながら言った。
胸が痛い。
「…もちろんです。」
父は平然と言った。
リリアナ嬢は殿下の側にずっといる。そういう仲なのだろうか。
「リリアナも欲しいものがあったか?」
「…」ぼそぼそ耳元で何か囁く。
「…そうか。」
「フェルセン侯爵」
「はい」
「そなたとは今後長いつきあになるであろう。よろしく頼む。
ただし、私が顧客にいることは他言せぬこと。約束できるか?」
「承知しました。」
「今後も面白い商品が手に入ったらヴィルヘルムを通じて連絡するように。」
「承知しました。」
殿下はいくつかの商品を購入すると持ってきた鞄にしまった。
帰り際、フェルセン侯爵は殿下に話しかけた。
「殿下、私からもお願いがあります。」
「なんだ」
「…このことは、カールソン公爵や国王には秘密にして欲しいのです。」




