男同士のお菓子づくり
僕は目の前でおこっていることが信じられない。横にいるユリアも同じ顔をしている。
「そんで?まだ混ぜるのか?」
「もっと手早くやってください。卵白の泡立てに失敗したらケーキは膨らみません。」
「そんなこと言ったって…、もう腕が疲れた。おいヴィル、お前代われっ。」
「…やりたいって言ったのフリッツですよね?」
「ヴェルナドッテ殿下、私が変わりに…。」
「ユリア…、僕、夢をみてる?」
「私も同じこと思ってたわ。」
目の前にいる皇太子二人と側近の男一人が、キッチンで楽しそうにケーキを作っている。授業がおわって来てみれば、さっきからずっとこの調子だ。
不思議すぎる。そして不気味だ。
「リネア…お兄様は両方イケるタイプのようですわね。」
「いや、片方だろ…。」
「確かに…。いいんですの?」
「いいって何が?」
「お兄様が殿下に懐いてることよ。私、お兄様のお尻に尻尾が見えるわ。」
「僕も見えるよ。…いいんじゃない?フリッツのことお兄さんみたいに慕ってるんだよ。私はむしろ嬉しい。」
「嬉しい?」
「うん、ヴィルが他の人に心を開いたこと。」
「そういうものかしら…。」
「フリッツ、次は卵黄だよ。」
「リネア、さっきから見てるだけならお前も手伝えっ!」
「楽しそうだからさ。邪魔したくなくて。」
「全然楽しくないよ、この人卵の割り方さえ知らなかったんだよ。」
「うるさいっ!!」
楽しいな。違法取引とか、人身売買とか、そんな話があることを忘れそうだ。こういう平和がずっと続けばいいのに。
泡立てた卵白と卵黄を手早く混ぜ合わせ、小麦粉を加える。
型に流してオーブンに入れ、しばらく待つといい匂いがしてきた。
「うまそうな匂いだ。」
「ヴィル、うまく膨らみそう?」
「うーん…多分大丈夫だと思うけど」
「クリーム、今日は何入れる?」
「バニラシュガーにしようかな」
「あわせるフルーツは?」
僕とヴィルがデコレーションの話をしていると、フリッツがユリアの座るソファーに向かった。側近のゲオルグさんが通訳している。
「ユリア・クリスティナ・ヴェルナドッテ嬢…だったな?」
「はい」
「そなた、あの二人をどう思う?」
「どう、とは?」
「うまくいくと思うか?」
「…私にはわかりません。」
「ヴィルフリートは分かりやすいけどな、リネアは誰にでもあんな調子だ。」
「…いくら殿下でも、あげませんわよ。」
「ははっ!そなた兄にそっくりだな!」
デコレーションに使ったのはラズベリー、いちご、ブルーベリー。スモーランドの特産品だ。夏の間に収穫したものを冷凍保存している。
「うん、うまい。自分で作るとうまいな!」
「フリッツ…ほとんどヴィルがつくってたよね…。」
「ゲオルグ、うちにもこれと同じキッチン作れるか?」
「…承知しました。」
「ずるい!すぐそうやって君たちは金と権力にものを言わせて欲しいものを簡単に手にしてしまうんだから。」
「本当に欲しいものは金では手に入りそうもないがな、ヴィル?」
「…そうですね。使えるものは使いたいと思うんですが…。」
「何の話?!」
ヴィルとフリッツが顔を合わせて笑った。
ユリアもニヤニヤしていて僕は居心地が悪かった。




