ニコちゃんの訪問
いよいよメルア大陸へ移動する日が決まった。
セルもシャーロット様の予定をなんとか調整してもらい一緒に行ける事になった。
それから、ソフィアがここにいることを知ったニコちゃんが今日ここに来る。電話ではずるいひどいと僕に怒っていたが実際に会ったらどうなるのか少し心配だ。
僕たちとソフィアはここにいる間にすっかり仲良くなってほぼ毎日アパートに来て夕食を一緒に食べるようになった。マルクやセルも少しずつ彼女を母親として受け入れ始めている。
だからニコちゃんには絶対に邪魔されたくない。
「久しぶりだね、ソフィア。まさかこんな所に来ていたとはね。僕が頼みに行った時には断ったくせに。」
ニコちゃんがアパートに来るなりいきなりソフィアに嫌みを言う。
「…リネアと会って変わったの。あなたこそ何をしに来たの?」
「家族の様子を見に来たらいけない?ねえ?セルゲイ…。」
「父上、母上。マルクとレナートの前でそういうのは止めてください。」
「セルの言う通りだよ。二人が困ってる。」
「ごめんなさい。そうよね、せっかくみんなの父親が来てくれたんですもの。やめましょう。」
「そうだね、ごめん。」
二人は僕たちの気まずい視線に気づいて嫌みを言いあうのをやめた。セルが気をきかせてコーヒーの用意を始める。
…セルはいつの間にかすっかり大人になった。以前はニコちゃんを避けて言いたいことも言えなかったけど今はちゃんと言えるようになった。しかも弟二人を思いやって…。
お茶が終わると、昼食にソフィアの得意料理であるペリメニをみんなで作ることにした。マルクが積極的に手伝っている。
ニコちゃんは微妙な表情でみんなを眺めていた。
僕はニコちゃんに呼ばれテラスで話を始めた。
「…僕だけ仲間外れだ。」
ニコちゃんは寂しそうだ。
「そう思うなら一緒に料理参加したら?」
「いや、いきなりあの中に入れないよ…。」
「ニコちゃん…邪魔しないでよ。せっかくみんなソフィアを慕い始めているんだから。」
「…分かってるよ。複雑な気分だけど彼らは彼女のこどもでもある。彼らが喜んでくれたら僕も嬉しい。ただ…。なんで僕だけ一人で家にいるんだろうって…。」
「あのさ、二人を留学させたのは自分だよね?彼らは今は落ち着いてる。やっと夜もまともに寝れるようになってきた。私は彼らをメルア大陸に連れていくつもり。」
「…君には感謝してる。もしかしてソフィアも行くとか?」
「行くよ。彼女も仕事があるからいつまでいれるから分からないけどね。」
「…羨ましいな…。」
「…たまには遊びに来てよ。一緒に何かする時間を作って欲しい。」
「…うん。そうする…。」
「なんで別れちゃった訳?離婚の原因にした音声の話、どうやって録ったのか知らないけど本気じゃないって彼女を見たらわかるけど…?」
「今の彼女は本来の、僕が昔から知っている彼女だ。でも僕や周りが無理やり結婚させた彼女は…。」
「ニコちゃん…、彼女は病気だったんだよ。自殺しそうになるほど。気づかなかった?」
「…気づかない振りをしていた…。」
◇◇◇
テラスにいるリネアと父上を見てソフィアが不思議そうな顔をしていた。
「ねえセルゲイ、あの二人ってどういう関係?一時的に親子だったとしても…まるで恋人みたいに見えるわ。」
「…あの二人はちょっと特殊な関係で…。父上はいろんな意味で彼女を気に入ってる。」
「そうみたいね。リネアは?」
「リネアは違うよ。仲は良いけど…。気になる?」
「…興味深い、というのが正しいわ。元々それほど彼に恋愛感情があったわけでもないしね。幼馴染みで弟みたいな存在だったし。」
「…そうなんだ。なんて言ったらいいか…。」
「あなたに言う話じゃないわね。」
「いや、私は大丈夫。父上が変な人なのも十分分かっているし。」
「…ありがとう、セルゲイ。」
「ソフィア、準備できたよ。」
マルクとレナートはテーブルセッティングまでしてくれた。
父上から荒れて手がつけられないと聞いていた二人はここに住み始めてから精神的に落ち着きを取り戻し、積極的に色々な事に取り組むようになっている。
「マルクはいつの間にか本当に料理が得意になったのね。」
マルクが照れ笑いをした。
「リネアと父上を呼んでこようか?」
「そうね。お願い。」
「リネア、父上、昼食ができたよ。」
「ありがとう、今行くよ。」
みんなでお昼ごはんを食べている時ソフィアが父上に話しかけた。
「ニコライ、二人で話しがしたいの。」
「いいよ?…じゃあ、出かける?」
「そうね…。」
「父上、いつまでこちらにいらっしゃる予定ですか?」
「うん、あと3日くらい。なんで?」
「いえ…。別に。」
「みんなでどっか行く?」
またリネアがお出かけを提案してきた。
「リネア?」
「ニコちゃん、飛行機だしてくれる?私みんなで出かけてみたい場所があるんだ。」
「いいけど…。みんなって…みんな?」
父上でさえ驚いている。そりゃそうだ。
「そう、ソフィアも来てくれる?」
「ええ、行こうかしら。ニコライが構わないなら。」
「…構わないよ?」
「じゃあ明日?家族旅行だね!みんなで行くなんて始めてだ!」
レナートが嬉しそうだ。
「…私がいない方がいいかな?」
リネアがレナートにそう言うと
「リネアは兄上と結婚するから家族でしょ?」
と言ってリネアの腕にしがみついた。
マルクも嬉しそうだ。
父上とソフィアとリネアが行く場所の相談を始めた。また有名な作家の故郷だという。
リネアがいなかったら、こんな日は来なかっただろう。
こんな光景が見られる日が来るなんて…。
嬉しくて私は泣きそうなのを我慢した。横にいたマルクも私を見てなんとなく笑っていた。




