二人の皇太子 1-1
「やけに可愛がっているじゃないですか?」
「何がだ?」
俺は客室のテーブルに向かい書類に目を通していた。
隣にいるのは今回の留学に連れてきた側近のゲオルグ・フォン・ヴィルヘルム。フレーデル王国の侯爵で、フェルセンの上客の振りをしている。歳は20歳、昔から俺の家庭教師をしているせいかこいつには頭があがらない。
「リネア・エステル様のことですよ。殿下があのお嬢さんと一晩中一緒だったって、屋敷では朝から大騒ぎだ。」
「エリザベスだ。」
「はい?
「俺のエリザベスに似ている。良く食べて、警戒心に乏しく誰にでも尻尾を振って、間抜けなとこまでそっくりだ。」
「…ご令嬢を犬に例えるのはいかがなものかと。」
「だいたいあれはまだ13のガキだ。騒ぎにするほうが間違ってる。あんな小僧にそういう気を起こすなんて不可能だ。」
「…いつになく楽しそうですよ?今まで他のご令嬢といてそんな楽しそうな顔みたことありません。」
「楽しそう…?」
「はい」
「そう言われてみれば、確かにそうかもしれない。今まで女とこれほど長くいて苦痛にならなかったのは初めてだ。まぁ、女と認識できないからだろう。」
「殿下の婚約者候補に入れてみてはいかがですか?身分的にも問題ありませんし、スモーランド王国はこれからも発展の余地が大いにあると拝見しました。」
「ふん。俺はまだ15だ。そういう面倒くさいことは今は考えたくない。だいたいあの娘にはヴィルフリートが…。そうか。」
「何か?」
「あのすました皇太子を困らせてやるのは楽しそうだ、と思っただけだ。」
「感心しませんね。悪趣味です。」
「冗談だ。そんなことに使う時間があったら国の問題のひとつも片付ける。今回の留学は無駄にはならなかったが、状況は何一つ変わっていない。…警戒することが一つ増えたことが良かったのか悪かったのか…。リスラ共和国とはな。」
「そういえば、最近あの二人にお会いしていませんね。」
「やめてくれ…。思い出すだけで寒気がする。」
「ゲオルグ」
「はい」
「ヴィルフリートに今から会いにいく。」
「承知しました。」
「リネア・エステル様は?」
「今はスクールにいるはずだ。今日はヴィルフリートと二人で話がしたい。リネアは部屋にいれるな。」
「承知しました。」
パブリックスクールの敷地内にある皇室専用の建物、その中にあるヴィルフリートの部屋に案内された。
部屋はシンプルですっきりしたインテリアだった。
モダンな家具があって洒落ている。
「殿下、ようこそお越し下さいました。」
「あぁ、…いい匂いがするな」
「今日はアップルパイを焼きました。」
「焼きたてか、うまそうだ…まさか、そなたが?」
「はい」
「変わってるなそなたも…」
「ありがとうございます。」
「フリッツと呼べ。いつまでもフレーデル殿下はやめろ。そなたの国は我が国より小さいとは言え、そなたは皇太子、俺と同じだからな。」
「承知しました。お気遣いありがとうございます。」
「あぁ、そういう長ったらしいのもいらん、俺は手短なのが好きだ、忙しいからな。」
「分かりました。…それで?本日こちらにいらっしゃったご要件は?」
「そなたがリネアと事件について調べていたのは知っている。俺は自分がここに来た理由と自分がこれまで分かったこと、それからこれからのことを話しにきた。」
「何故私に?」
「そなたとは将来にわたって協力する必要があるし、そなたとならできると思ったからだ。」




