フリッツの話 1
「おまえ…さ、なんつーか…、いろいろぶっ飛んでんな。」
フリッツがひいているのが分かる。僕は気にしない。
「この寝間着のこと?いったよね、ヒラヒラしたの嫌いだって。」
「にしても、俺のとあまり変わらないようなの着てるとかさ、寝間着のまま部屋に男を入れるとか、想定外すぎる。お前の侍女もよく許してくれるな。」
部屋の角にあるソファーにフリッツを案内した。チークのフレームのソファーは、有名な作家のものではないけど、祖父から受け継いだお気に入りだ。オスカルが所持していたものをリネアの部屋に移して使っている。
「さて…」
「食べる?」
僕はペッパコーカをフリッツに差し出した。
「ジンジャークッキーか?」
「そう。この国ではペッパコーカって言うんだ。」
「夜に菓子食うと太るぞ。」
「大丈夫、今日いっぱい運動したから。」
僕はコーヒーを用意した。
「本題に入る。俺がここに来た理由だ。ここからは他言無用だ。いいな?」
「…ヴィルには言ってもいい?」
「ある程度状況を整理してからだ、ちょっと待て。」
「分かった。」
「俺の国で、最近違法取引が行われているんだが…。」
「違法取引?」
「そうだ、象って知ってるか?」
「見たことはないけど、南のアフラル大陸にいる動物だよね。」
「ああ。その象の牙が我が国の貴族に横流しされているという情報をつかんだ。それも、スモーランド王国から。」
「えっ?!」
…いきなり何の話?!
「今貴族の間で珍しいものを所有するのがブームでな、虎の毛皮やらライオンの剥製なんかも高値で取引されている。」
「ひどい…。」
「それらの動物は国際条約で輸出入禁止に入っている貴重な動物だ。大概、金にものをいわせた連中が現地の人間を安く雇って密猟を行っているのが実態だが、うちの国の者がそのような物を買っているとしたら国際問題だ。もちろん、お前の国も。」
「知らなかったよ。…で、フェルセン侯爵が裏で繋がっていると?」
「今、なんて…?」
しまった!僕たちがフェルセン公爵を調べているのは秘密だった!
「お前…。ふうん?そうか。まぁそうだよな。自分が殺されかけたんだ、調べていても不思議はないな。」
…ヴィルの呆れた顔が脳裏に浮かぶ。あぁ、僕さっそくやらかしちゃったみたい。
「うん…私たちも…、事件の真相を知りたくて…。それで?」
「動物を購入していたうちの国の貴族の一人がフェルセンの名前の入った書類を持っていた。スモーランド王室公認許可証書も一緒にな。」
「そんな…。フェルセン侯爵の家は代々外交をつとめる役職についていて、他国とのパイプをたくさん持っているとは聞いていたけど…。しかも王室許可証って…。」
「俺は、お前の父親も国王も、この違法な取引に関与しているかは別として何かしらの情報を持っていると予測している。特にお前の父親は、どちらかと言うとフェルセンの行動に反発していたのではないか、と。」
「…だから、狙われた?」
「…あの事件の日、この屋敷に来ていたのはフェルセンの上顧客の一人で、真相を調べる為顧客の振りをしていた俺の側近だからな。国賓としてこの家に滞在するようフェルセンから連絡を受けて来たんだ。元々カールソン公爵は堅実なタイプの方のようだだ。暮らしぶりからも分かる。無駄に人も雇わないから、急に国賓が来るとなれば警備も人手も手薄になろう。その隙を作り出し事件を起こした、俺はそう考えている。」
「そんな…見せしめにするために?」
「本当の理由は俺にもまだ分からん。国王とも仲が良いとか色々思い当たる節はある。ただ、子どもを持つ親が、人の子どもを狙うとか…、俺には理解できん。お前の兄の死に俺も加担していたようで…本当にすまない。」
「頭をあげてよ、フリッツ。フリッツのせいじゃない。」
「…お前が兄を失ったせいで、こんなおかしな…男女になってしまった事に俺も責任の一旦を感じる。」
…今さらっとディスりました?
「リネア」
「はい」
「万が一、いや…、ヴィルフリートにも見捨てられるようなことがあったら、俺の所にこい。」
「…はい?」
「お前のことは嫌いじゃない。少なくとも、俺のエリザベスくらいには愛せると思う。」
「…誰だよ」
「俺のダックスフントだ。」
「犬じゃないかっ!!…責任感じてもらわなくていいから。」
フリッツの中で、リネアはオスカルの死後、気がおかしくなってこんな男みたいな変な人間になってしまった、というストーリーが出来上がったようだ。うちの父も母もだいたいそんな感じに思っているだろう。
「…とりあえず、俺はフェルセンの家に行く。お前は来るなよ、ボロがでそうだから。それから、お前の父親、国王にもいずれかの段階で話をする。これは国際条約違反、重大な犯罪行為だ。このままにはしておけない。うちも国が表だって動けないからな、今回俺は事件の真相を究明するため、留学という形をとってここへ来た。誰が違法取引を先導しているか、誰が関与しているか調べて内々に処理するつもりでいる。お前の件についても同時にいろいろ判明するだろうからお前も協力しろ。」
「…分かった。」
僕の死の裏にこんな事情があったなんて…。
「どうして私に話したの?」
「お前は信用できると判断した。いや、嘘や取り繕うという術を持ち合わせていないと思ったと言うべきだな。」
「誉めてんの?貶してんの?」
「両方だ。さぁ、寝るぞ、明日からも忙しいからな。」
かなり変な人だけど、フリッツはすごい人だ。
ヴィルに早く伝えたい、だけど、ある程度明らかになるまで待つしかないんだな。
僕も寝よう、今日はいろいろあって疲れた…。




