フリードリヒ殿下が来た 1-2
「こちらがフリードリヒ…なんだったっけ?」
「物覚えが悪いなお前、次からは練習しておけ。通訳として恥ずかしい。フリードリヒ・アウグスト・フォン・フレーデルだ」
「ヴィルフリート・グスタフ・ヴェルナドッテです、初めてまして。ようこそお越しくださいました。」
皇室用建物の来賓の間に僕たちはいる。
ヴィルの機嫌が物凄く悪いのが伝わる。
不可抗力だ、怒るならこっちの皇子に怒ってくれ。
「噂には聞いていたが本当に美少年だな。典型的な皇子様っていう感じの。」
フリッツはヴィルを繁々見ている。変人ぶり全開だ。
「…ありがとうございます。フレーデル殿下も噂に聞く美男子でいらっしゃいますね。」
フリッツは長身で、艶やかな黒髪、端正な顔立ち、青味がかったグレーの瞳が印象的だ。僕らと二歳しか違わないのにすでに青年という雰囲気だ。
「殿下、こちらはヴィルフリート殿下の妹です。」
「ユリア・クリスティナ・ヴェルナドッテです。初めまして。」
「あぁ。よろしく頼む。」
「リネアの家はいかがですか?」
「悪くない。朝からリネアが焼いたパンも食べたがうまかったぞ。」
あっ、ヴィルの顔、すごい笑顔。
「でしょうね。彼女は料理が趣味なので。」
「そなたの部屋にあるキッチンに我が国のガゲナーを所望された。そなた、リネアを料理人として使っているのか?」
…もはやヴィルの方を見ることができない。僕は窓の外を眺めることにした。
「まさか、僕も料理が趣味なので、よく一緒に作るんですよ。」
「変わった奴らだな、よし!今度食わせろ!」
「…承知しました。」
ヴィル…。君も皇太子なのに料理人扱いか…。僕は切ない目でヴィルを見た。
「リネア、すごいわ。お兄様はともかくリネアがこんなにフレーデル語が堪能だったなんて。私殆ど聞き取れませんもの。たまに単語が似ていて分かる時もあるけど。」
「リネアは他にもこの周辺国の言葉ならたいてい話せるんだよ。」
「すごいですわー!!あっ私ったら、フレーデル殿下の前で…失礼しました。」
「リネア、この姫、なんだって?」
「あっ、ユリアに語学力をほめられました。」
「うむ。定冠詞があやしい時もあるが、及第点だ。」
「うちの国の言語には男性名詞とかないですからね。もう少し勉強します。」
「俺が教えてやろう。発音もまだ矯正が必要だ。アクセントが南部訛りで聞きにくい。」
「父の留学先が南部だったので」
「どこだ?」
「ミューニヒスです。」
「なるほどな。」
「…お兄様。大丈夫ですか?笑顔が崩れていますよ。」
「気のせいだ。」
「フレーデル殿下、今日は城で歓迎パーティーを行いますが、何かご要望はありますか?」
「特にない。堅苦しいのは嫌いだ。あと、通訳にリネアを同行させる。護衛は最小限でよい。あと長居はしない、見世物になるのは疲れるからな。…あとは、変に気を使って色々食事も用意しないように。」
「…承知しました。」
「特に要望ないって、めちゃあるし。」
「阿呆、俺が最初にこう言っておけば、持て成す側の労力も節約できるし、俺もいらん気を使わなくて済むだろう。」
「成る程、一理ある。」
「殿下、お気遣い、ありがたく存じます。」
フリッツは、言いたい放題言った後部屋を出る合図をして、去り際ヴィルに一言こういった。
「ああ、ひとつ要望があった。
…フェルセン侯爵という者を今日紹介するように。」




