リネアと僕 1-1
時は今から約3年前に遡る。
僕には双子の妹がいた。名をリネア・エステル・カールソンという。
リネアは生まれつき病弱で、冬の寒さが厳しい時期は郊外の別邸で静養していた。彼女は一日の大半をベッドの上で過ごし、体調がよい日は料理をつくったり刺繍をしたりしていた。
誰にでも優しく朗らかな彼女に屋敷のみんなはいつも甘くて、特に料理長は実の娘のようにリネアを可愛がった。新しいレシピが手に入る度にリネアと料理の試作をしてみんなにふるまっていたっけ。
僕もリネアに何かしてあげたくて、外に出られない彼女の為に彼女の部屋でいろんな話をした。街で見た大道芸、新しく開店したパン屋やケーキ屋、親友の話。彼女は見た目王子そのものだった親友のヴィルに憧れていたから、ヴィルに予定がない日は別邸に来てもらって一緒に庭でピクニックやカードゲームをした。
もっと彼女にいろんな話をしてあげたい、知らない世界を見せてあげたい。そう思った僕は語学の勉強をたくさんして、パブリックスクールに入学したらいろんな国に留学しようと決めた。リネアが外に出られない分、自分がリネアの目や足になって彼女に僕の見たもの感じたものを伝えたかった。彼女に残された時間はあまり長くないことを知っていたから。
そして、12歳の誕生日を迎える直前、事件がおこった。
その日僕たちは誕生日を家族で祝うため、妹が療養している別邸から自邸に馬車で移動していた。数日間妹の体調が良かったから、早く両親に会いたいと言う妹のため帰宅予定日を繰り上げて出発した。普段は専属の護衛が運転手と迎えにくるのだが、この日は屋敷にフレーデル王国から国賓の来客があり警備に人が足らず運転手一人が迎えにきた。今まで幾度となく行き来して慣れた道。だからこんなことになるなんて誰が予測できただろう。
郊外の住宅地から森を抜ける道中、暴漢に襲われた。相手は5人。勝ち目はなかった。後で調べてわかったことだが政治絡みの犯行だった。
最初に運転手が殺された。次に妹を庇った僕、そして最後に妹が襲われた。
朦朧とする意識の中リネアの小さな声が聞こえた。
「…お兄ちゃん、お兄ちゃん、聞こえる?」
ああ、やはり妹を守ることができなかった。僕がもっと強かったら、こんなことにならずにすんだのに。
「リネア…もっとずっと一緒にいたかったよ。ごめんな。」
「これからもずっと一緒にいられるわ。だからこちらに…。
早く、時間が、ないの…!」
妹が何か一生懸命言っているが意識が朦朧として、もうほとんど聞き取れなかった。自分の弱さが不甲斐なかった。大切な僕のリネア…守れなくてごめん。
薄れ行く意識の中僕たちは手をとり抱きしめあった。
「さようならオスカル、そしてずっとずっと一緒よ。」
リネアのこの言葉を最後に僕は意識を失った。目映い光に包まれどこか遠くに二人で旅にでるんだと思った。リネア、やっと自由になれたね。これからは二人でいようね。
そして「僕」が目をさますことはなかった。




