帰途の飛行機にて
「昨日は楽しかったね、ワクワクした出来事もあったし、バーベキューも美味しかったし。」
「ワクワクって…。」
ニコちゃんは今日は操縦をパイロットに任せて僕達と一緒に座っている。
「君がスモーランドでの取引契約を実行できなかった時のペナルティーについてだけど。」
「…。やっぱりきたね。」
「昨日いろいろ考えたんだけど君が必死でペナルティーを回避する為の動機って何か僕には分からなくて。ミハイルならどうする?」
「…そうですね…。」
「あのさぁ?二人とも、私の人生に関わりそうな話をゲーム感覚で決めるのやめてくれる?」
「…退屈な人生を送らせる事でしょうか。」
「例えば?」
「なかなか難しい質問ですね。彼女はどこへ行っても何をしてもそれなりに自分で楽しみを見つけられる人なので。ヴィルフリートと婚約した時はかなり嫌がっていましたから、ああいうのが一番効果的でしょうが、これ以上他に婚約者候補を用意するのは辞めていただきたい。」
「なるほど。じゃあさ、こうしよう!」
ニコちゃんが、僕の肩をつかんだ。
「5年後君は20歳だ。社会的にみてもちゃんと大人になっている。」
「そうだね。」
「君に、相応しい人がまだ見つかっていなくてミハイルも選んでいなかったら、君を僕の側室にする。」
「は?」
「え?」
「今は君は子どもだからそういう対象には全くならないけど20歳になったらそういう対象に見えるかもしれない。」
「えっ?絶対嫌だ。」
「父上…冗談がすぎますよ?」
「いや、冗談じゃない。だってこのペナルティーならなんとかしてスモーランドとの取引を成功させようとするはずだから。はい、決定。娘から奥さんになりたくなかったら馬車馬のように僕の為に働きたまえ。」
「なんて卑怯な…。」
「卑怯な僕と縁を持ったが最後だ。さあ、サインしてもらおうか。」
「ユーラが余計なこと言うから…。」
「私を睨まないでよ。ちょっと悪かったと思うけど私のせいじゃない。」
「念のために聞くけどニコちゃんて何歳?」
「34歳だよ。」
「つまり私と19歳離れてるってこと?」
「そうだね。」
「…なくもないか。」
「でしょ?」
「で?側室になったらどうなるわけ?」
「リネア…君は何を父上に聞いているんだ?!」
「一応聞いておくべきでしょ?物事に絶対はないからね。」
「そうだなぁ。退屈な人生を送りたくないといっていたから、仕事はさせないでお小遣いを渡す生活にしようか?」
「そのお小遣いをもらって自由に過ごしてもいい訳?」
「そうだね。君はレストランの株主になってるし実家も豊かだからまあまあ自由になるお金はありそうだね。今の僕の奥さんは世界中に旅行に行ってあまりリスラ共和国にいないけど君もそうなりそうだね。」
「えっ…?それ悪くないんじゃない?」
「リネア?」
「だって側室なら面倒な公務もなさそうだし、跡取りはすでにいるから子どもをつくるプレッシャーもない。おまけにお小遣いが貰えて自由にあちこち行けるって、良くない?」
「君は…側室の地位も受け入れられると?」
「だって別に皇太子夫人とかそういう面倒なのになりたい訳じゃないし、そもそも私は結婚に向かないという自信がある。だったら側室はありじゃない?」
「…君は、好きな人と一緒にいたいとかそういうのはない訳?フリッツが好きなんだよね?」
「そうだけど…。」
「フリッツが他の人と結婚してもいいの?」
「…それは嫌だけど、その側室案は立場的には一番楽そうだよね?」
「…父上、側室案はあまり効果的ではなさそうですが。」
「いや、効果はある。君とセルゲイに絶大な効果が期待できそうだ。リネア、君は変わってるね。本当に女性とは思えないよ。」
「…ユーラやセルにも話したけど、私、本当は男なんだ。」
「リネア…。」
「ユーラ、ちゃんとニコちゃんにはこの際言っておいた方がいいよ。」
「えっ?君、女装してるの?」
「…気持ち的には女装に近いんだけど一応体は女だよ。」
「あ、性同一性障害?」
「…でもなくてさ、私はあの事件で死んだはずのオスカルなんだ。」
「…僕はちょっと今理解に苦しんでいる。…どういう事?」
僕は生まれ変わった経緯やその後の自分についてニコちゃんに一通り説明した。
「…君が前から変わってるとは思ってたけど、そんな不思議な事になっていたなんて…。久しぶりにびっくりしたよ。」
「この話を知っている人はそんなにはいないんだけど、私に近い人は知ってる。あ、イーチェンは知らないか。」
「そうかぁ。でもよかったんじゃない?」
「何が?」
「だってその見た目でその人格だからいろんな国の男性に興味を持って貰えた訳で。そうでなくてただのオスカルだったら君はずっとスモーランドで外交官止まりだった訳でしょ?当然フリードリヒも君をフレ-デル王国に呼ぼうなんて思わなかったし、ミハイル達もエンゲル王国に連れて行かなかったはずだ。君はその見た目と性別、地位が揃ったから今こうして面白い人生を歩んでいる訳だ。妹に感謝しないとね。」
「…そんなふうに考えた事はなかったけど言われてみたら確かにそうだね。」
「僕だって君が男性ならこうして養子にはしなかっただろう。…それにしてもおもしろい。君が今オスカルのままなら一緒にクーデターに巻き込まれて都落ちしていたかもしれないね。」
「確かに。」
「よかったね、リネアになれて。」
そう言ってニコちゃんは笑った。




