リスラ共和国での晩餐会
私は父の部屋をノックした。
この部屋へ自分から近づくなんて、何年ぶりだろう…。
「どうぞ」
「失礼します。」
「珍しいね。君の方から訪ねて来てくれるなんて。」
「…ヴィルフリートについて聞きたくて。」
「ああ、君の報告通りだったよ。いろんな意味で。君はよく観察してるね。」
「…というと?」
「うん、真面目な好青年だった。まだまだ頼りないところもあるけど、鍛えればちゃんとやっていけるんじゃない?少なくとも今の国王くらいには。」
「ええ。そう思います。」
「ミハイル、君が一番聞きたいことはそんな事じゃないはずだろう?」
「…なんでもお見通しですね。」
父が笑う。
「お楽しみは最後までとっておかなきゃ。せっかく君が来てくれたんだ。君も一緒にサプライズを楽しむべきだろう?最もどうなるかは彼ら次第だけどね。」
…私はリネアとの婚約を望んでいるのに、未だ父からよい返事がもらえない。彼は一体何を考えているのだろう?彼女を手札にすると言っていたがどのようにしてそうするつもりなのか…。
「…そこまで彼女に利用価値があるとお考えですか?」
「…どうかな?少なくともアリーナよりつかえると思っているけど?」
…結局この人にとっては自分の子どもはただの手足でしかない。役に立たなければ簡単に切り捨てていくだろう。
「イーチェンの父親のウェイもリネアのこと気に入ったみたいだよ。この前電話で話をしたんだけどイーチェンと一緒に世界でビジネスをさせていきたいって言ってた。」
「…イーチェンの父が…?」
「聞いてなかった?」
「…特には。」
「ふうん?ウェイも狸だからどこまで本気かよく分からないけど、話に出るくらいだからそれくらいの価値はあったんだと思うよ。わざわざ時間をとって会ったってことも普通じゃないしね。まあ、楽しみにしていてよ。君の期待を裏切らないよう楽しい晩餐会にしてあげるから。」
この人は、やっぱり人間としてどこかおかしい。
私はこの人のようにはなりたくないと思う。
だけど今は黙っているのが得策だろう。
「君とヴィルフリートってちょっと似てるなって思ったよ。アリーナが惹かれるた理由はそこじゃないかな?」
「私とヴィルフリートが?」
「自分でもそう思わない?ちょっと根暗で思慮深くて警戒心が強い。ただいったん何かを気に入ると異常なほど執着するところとか…。」
「…失礼します。」
私は耐えきれず部屋をでた。
あの人は本当に性格が悪い。私もそれを受け継いでいると思うとぞっとする。
彼と話しているとリネアに会う以前の自分を思い出して嫌な気分になる。
早くあの人から離れたい…。
少し離れた場所でリネアがヴィルと話をしているのが見える。
スモーランド語で話をしていたが口の動きを読みとれそうだ…。
「プレゼントの置物、嬉しかった。どうやって手に入れたんだ?」
「オークションで買えたんだよ。あのシリーズ集めていたよね?」
「そうなんだ。ずっとあの猫が欲しくて、でもなかなか手に入らなくて、嬉しかったよ。ありがとう。」
…よく分からないが誕生日プレゼントの話しをしているらしい。
リネアはヴィルフリートと話すときは男の口調に戻るらしい。あれはあれで可愛いと思えるから不思議だ。
「君にずっと会いたかった。せっかく婚約者になったのにいきなり離れることになってしまって…。しかも全然連絡をくれないし、君らしいというか…。」
「ごめん。」
「早く一緒にスモーランドに帰りたい。」
「ヴィル…。」
「いつ帰ってきてくれるの?」
「…まだ今始まったばかりなんだ。もう少し時間をくれないか?」
「いつまで…?」
「…」
「いつになったら君は僕のものになってくれるんだ?」
…ここが敵の領地だってことを忘れているのか?いくらスモーランド語で話しているからって無警戒にもほどがある。私が彼に似ているって?私はこんな軽率なことはしない。一緒にしないで欲しい。
「リネア、もうすぐ食事の時間だよ。」
「ユーラ」
「ヴィルフリート、君もそろそろ準備をした方がいい。」
「…はい。」
この日が来るのを私がどれだけ待っていたか…。
君たちが父の言葉を聞いてどのような反応をみせるのか、どのように対応するのか、ずっと楽しみにしていた。
だけど私が望んでいたことはあの意地の悪い父親のせいで叶えられないことが分かった。
私はその望みを叶える為にこれまで彼の手先となりいろいろと動いて来たのに…。
夕食にはボルシチやガルプツィ、ビーフストロガノフなど典型的なリスラ料理が出された。ヴィルフリートやアリーナはほとんど食事に手をつけていない。それに引き換え…
「おいしー!!あ、おかわりありますか?」
リネアは本当に嬉しそうに食べている。
彼女のこういうところは本当にすごいと思う。これから何が起こるかはある程度予測しているはずだが、それはそれで今この瞬間を楽しめてしまうところ、こういうところが父に気に入られたに違いない。
「リネアは相変わらずいい食べっぷりだね。」
「ニコちゃん、このボルシチのレシピください。」
「…そうだなあ。これは秘伝のレシピだからタダではあげれないな。」
「うわ、親子そろって取引?」
「もちろん。」
…やっぱり私は父に似ているらしい。心から残念に思う。
「で?」
「そうだなあ。ここにいる間に何か僕に作ってみてよ。」
「いいよ?それだけ?」
「それだけ。」
「分かった!」
この二人以外周りにいる者すべてが二人の会話に唖然としている。
それはそうだろう。誰もこんな父を見たことがないのだから。
父は彼女といる時はとても機嫌がいい。
彼女が結構ギリギリのラインで攻めてきてもそれを楽しんでいるようだ。
リネア、君は本当に不思議な人だ。この父にまでこんな顔をさせてしまうのだから…。
デザートを終えたところで父が人払いをした。
この部屋には父を除き私たち4人だけになった。
テーブルの端に父が座り
その両サイドにそれぞれ私とアリーナ、
反対側にヴィルフリートとリネアが座る。
「さて、本題に入ろうか」
いよいよこの時が来た。




