お兄様と私 1-1
私、ユリア・クリスティナ・ヴェルナドッテはスモーランド王国の国王夫妻の長女として生まれた。
私には兄と三つ年下の弟がいる。
兄はこの国の次期国王候補筆頭として、母や私たちきょうだいから離されて育ったから彼との幼少の頃の思い出はほとんどない。
誕生日やクリスマスの行事の時に顔を合わせることはあれど、彼は本当に近寄りがたくいつも冷たい目をしていた。
母はいつも兄を心配していたけど祖母が怖くて兄に何もしてあげられないとよく泣いていた。
昔から兄があまりに無表情で人形みたいで、正直気持ち悪いと思っていた。私がそのことをつい母にもらすと、祖母が他界したことをきっかけに母は意を決して兄に友達をつくってあげるよう父に懇願した。
それからしばらくして、私は庭で兄が同じくらいの年頃の男の子と笑いながら歩いているところをみかけた。
びっくりした。
兄が笑っている顔を初めて見た。作り笑いじゃない、本当の笑顔。
隣にいた方はオスカルといって、父の重臣のひとりのカールソン家の長男だった。
オスカルは誰にでも別け隔てなく優しくて、チャーミングで面白くて、私はすぐに彼が好きになった。この好きがどういう好きかはわからなかったけど、彼は人として本当に素敵な魅力の持ち主だったから彼を好きになったのは私だけじゃなかった。母や父まで彼の話を聞きたがって、いつの間にか家族揃って夕食を食べることが増えた。
リネアにあったのはオスカルと知り合ってしばらくたってから。身体の弱いリネアは一日の大半をベッドで過ごしていた。
私はオスカルがいない時もリネアのところを訪ねるようになっていた。
リネアはオスカルによく似た優しい性格の持ち主だった。私はあまり心を許せる友達らしい友達はいなかったけど、リネアがお姉さんみたいに接してくれたから寂しくなかった。オスカルと同じくらい、私はリネアが大好きだった。
リネアは兄に憧れていた。兄が来ると顔を赤くして、嬉しそうに見つめていたけど当の兄はリネアにまったく興味を示さなかった。リネアに名前を呼ぶことも許さなかったし、いつも他の人と話す時のような表情のない社交的な笑みを浮かべているだけだった。
兄が興味があるのはオスカルだけ。
妹の私からみても異常なくらい兄は彼にだけ優しかった。
兄にとって、オスカルはなくてはならない人だった。
そのオスカルを、悲しい事故で失くした。
私も悲しかったけど兄の悲しみとは比較しようもなかった。
彼が亡くなった日を境に、ようやく人間らしさがでてきた兄は再び人形のような顔つきになって部屋に籠るようになった。
パブリックスクールに入学する半年前くらいから少しずつ元気を取り戻してきたと両親は言っていたけど、入学の準備に忙しいらしく、今日今までほとんど顔を合わせることさえなかった。
リネアにも会いたかったけど、ずっと臥せっていると聞いていたし、入学のこともあったから会いにいけずにいた。
それなのに今、目の前で起こった事はいったい何だったの?
兄の顔はオスカルといた時そのものだった。
リネアもわざと丁寧に私に話しかけようとしていたみたいだけど、あんな話し方をする人じゃなかった。
噂で、事故のあとのリネアがオスカルみたいに元気になってしまったと聞いたけど、元気とかそういう話じゃない。
リネアは…、雰囲気や兄への話し方がオスカルそのものだった。
そうでなければ、いくら見た目が似ていたからといってあの兄が他人にあんなに近づける訳がないし、自ら料理を振る舞ったりするはずがない。
それに…、私は知ってる。リネアはチーズが嫌いだったってことを。




