アリーナと僕 2
「ヴィルフリート、たまにはデートに出かけましょ?」
「どこか行きたい所があるの?」
「街から少し離れた場所に行ってみたいわ。せっかくこっちに来たのにまだこの街しか知らないし…。」
「いいよ。じゃあ来週あたり行ってみようか。」
「嬉しい。」
アリーナがこちらに来て、最初こそ抵抗があったけどいつの間にか一緒にいるのが当たり前の生活になってしまった。
オスカルとやり取りしている手紙は社交的なものばかりで彼が僕に気がないのは一目瞭然だった。
虚しさや寂しさを埋めるのに都合よくアリーナがいた。
リスラ共和国との貿易がうまくいっているおかげで久しぶりに経済も上向きつつある。彼女といる言い訳にもなった。
アリーナがカールの家に招待されてから、カールと彼のガールフレンドとアリーナと僕の四人で出かけるようになった。
カールは定期的に僕に家の情報を伝えてくれた。
フリッツとも僕は定期的に連絡をとり続けている。彼の所にはオスカルから一切手紙は届かないようだ。
僕が店を始める事やミハイルと住んでいることを伝えるとものすごく怒っていた。
オスカルと絶対に離れたくないと思っていたし、側にいるのが当たり前だと思っていたけど、いったん離れてしまえばそれが日常になり慣れてしまうのだと知った。
もちろんオスカルと婚約して結婚したいという気持ちがなくなった訳ではない。だけど僕も毎日それなりに忙しかったから彼の事ばかり考えずにすんだし、やきもちをやいたり破天荒な彼の行動に振り回されたりする心配がなくて楽だと思う気持ちもあった。
その事をフリッツの手紙に書いたら激しく同意してくれた。おそらく今はミハイルが彼の保護者役を担当しているに違いない。次から次へと面倒な知り合いをつくったりみんなが心配になるような行動をとるためきっと疲れている事だろう。
僕はさっき届いたオスカルからの手紙をあける。珍しく手紙が間隔を開けずに届いた。
手紙にはミハイルの父親に彼が会いたいと言った為、急遽会うことが決まったと書いてある。しかも…今週?エンゲル王国で…?!
「…一体どうなっているんだ?!」
僕はアリーナの部屋に急いで行った。アリーナは何か知っているだろうか?
「どうしたの、ヴィルフリート…。」
「君の父親がエンゲル王国に行くらしい。」
「えっ?お父様が…?」
「リネアに会いにいくらしい…。」
「どういう事…?」
アリーナは何も知らないようだ。
フリッツに知らせるべきだろうか?
…いや、知らせた所でどうにかなるのだろうか?
オスカルは何をやっているんだ?誰のせいで自分が殺される事になったか分かっていてどうしてこういう事になる…?
「リネアが心配だ…。僕もエンゲル王国へ行くべきだろうか…。間に合うかもわからないし…。どうしよう、リネアに何かあったら…。」
アリーナに言うことじゃなかったのにどうしようもなく心配になる。
「ヴィルフリート…、気持ちは分かるけど、お兄様もセルゲイもいるのよ。しかもスモーランドの国王様と今回は契約して留学してるんでしょ?だったらいくらお父様でも何かするってことはないはずよ。」
「君は知らないから…!」
「…何を?」
「…それは…。」
「お父様が昔リネアと彼女のお兄様を殺そうとした事?」
「知っていたのか…?」
アリーナが目をそらして呟いた。
「お兄様に聞いたわ。最近ね…。」
「…。」
「大丈夫、きっと今回はそんなふうにはならない。…私もお兄様に聞いてみるわ。何故お父様がリネアに会いに行くのか私にも理解できないし…。」
「…ありがとう。」
「あなたは本当にリネアの事になると冷静でいられなくなるのね…。私の事ならこんなふうに取り乱したりしないでしょ…?」
「…君はリネアみたいにおかしな行動をとったりしないからね。」
「ごまかさないで…。私が知らないとでも思ってる?」
「アリーナ…?」
「リネアと婚約するつもりなんでしょう…?」
アリーナが僕の目をみて悲しそうに笑う。
「あなたは、私がリスラ共和国の大統領の娘だから一緒にいてくれるのよね?」
「アリーナ…。」
「何か情報を持ってくるかもしれないし、私の機嫌を損ねたら貿易に支障がでるかもしれないって思ってるんでしょ?」
全部…知っていたのか…。
「図星って顔してるわね…。」
「アリーナ、僕は…。」
「でもリネアはあなたの事をなんとも思ってないじゃない。私はあなたがリネアと幸せになれるとは思えない…。」
アリーナが僕に抱きつく。
ああ、もうこれ以上アリーナを傷つけたらいけない。
本当の事を言わなきゃ…。
「…僕がずっと好きなんだ。昔から…。」
「そんな話聞きたくないわ。」
「アリーナ、僕は今まで会った女性の中で誰よりも君といるのが居心地がよかったんだ。…だけど…。」
アリーナが僕にキスをする。
「言わないで…。」
「アリーナ…」
「リネアが帰ってくるまででいいの。それまでは私の恋人でいて…?」
アリーナの目から涙がこぼれる。
「僕はもう君を利用したくない、君は僕にとってどうでもいい人なんかじゃないんだ…。」
「嬉しいわ…。だったら、私のわがまま聞いて…ね…?」
キスをしたままベッドに倒される。
あぁ、結局こうしてどんどん抜けられなくなっていくんだ。
僕は自分がこんなに優柔不断な人間だったなんて知らなかった…。




