早食い競争
「そなたがリスラ共和国からきたミハイル・ユーリ・ロマノか」
「…初めまして。シャーロット・エルサ・ウィングス様」
肩までの短い髪、青い瞳、少年のような雰囲気…。この令嬢が、エンゲル王国の次期女王か。
まさか同じクラスになるとは…。
「ミハイルと呼んでも?」
「はい。」
「私の事はシャーロットと。」
「はい。」
「先ほどから令嬢たちが噂をしていたが、なるほど、性別を越えた美しさがあるな。」
「ありがとうございます。」
「ふん、言われなれているな。私がスクールを案内してやろう。」
「ありがとうございます。」
シャーロットは私にスクールを案内した。仕草や言葉遣いが男性のような方だった。リネアに会わせてみたらどんな反応をするだろう。
カフェテリアの方から賑やかな声が聞こえてきた。
「賑やかですね。」
「月に一度の早食い競争をやっているみたいだ。」
「早食い…?」
「巨大なフィッシュアンドチップスを制限時間内に食べるという理解不能なイベントだ。」
くだらない…。
歓声が聞こえてきた。
「あの小柄なお嬢さんすごいぞ!」
「毎回勝ってるあの少年といい勝負じゃないか?」
嫌な予感がした。
「ミハイル、あの令嬢おもしろいぞ。見てみろ、手掴みで思い切り口にチップスをつっこんでいる。」
「…」
そんな事をする令嬢がアレの他にいるハズがない…。
「お前、女の癖になかなかやるじゃないか。もう後の奴らはリタイアしたぞ。お前もそろそろ脱落したらどうだ?」
「女だからって馬鹿にしたら痛い目をみるよ。私はあきらめない。勝つのは私だ。」
まわりからリネア、リネアと歓声が聞こえて来る…。
リネアが口にソースをつけながら物凄い勢いでチップスを口に入れた。頬が膨れリスのような顔になっている。
…あれは一体何をしているんだ?
保護者がヴィルフリートからフリッツになり、今度は私にそれが回って来たかと思うと少し頭が痛くなってきた。
観衆の中にいたセルゲイを引っ張りだし声をかけた。
「セルゲイ、何故こうなった?」
「分かりません。気づいたらこうなっていました。」
「知り合いか?」
「弟です。セルゲイ、こちらはエンゲル王国の皇女シャーロット様だ。」
「初めまして。よろしくお願いします。」
「そなたら、あの令嬢の知り合いか?」
「…」
できれば今は違うと言いたい。
「面白いな。後で紹介するように。」
早くも皇女の目にとまるとは…。
「兄上、制限時間まで後少しなんです。私は見てきていいですか?」
「私も行くとしよう。」
シャーロットがセルゲイと観衆の中に入っていった。
あの人、さっき理解不能と言っていなかったか…?
リネアも横にいた東の国の少年もほぼ制限時間いっぱいで巨大なフィッシュアンドチップスを食べ終えた。
大歓声が上がる。
「お前、やるなあ、名前は?」
「リネア」
「俺はイーチェンだ。よろしくな、リネア!」
少年とリネアが握手をした。
リネアは沢山の人に囲まれた。
何が目立ちたくないだ。めちゃくちゃじゃないか。
「そこの少女…リネアと申したか。」
シャーロットがリネアに声をかけるとまわりの生徒が一同に下がった。
「…はい。リネアです。」
「そなた、面白い。」
リネアはシャーロットを見て顔を赤くした。
オスカルのタイプの女性に当てはまったらしい。
「え…と。」
「シャーロットだ。」
「シャーロット…。」
「ミハイルと同じクラスだ。よろしくな。」
シャーロットが差し出した手をリネアが握った。
「よろしくお願いします。」
「うん、可愛いな、君は。」
シャーロットがリネアの頭を撫でた。
リネアが動揺しているのが分かる。
なんなんだ、この皇女は…?
「近いうちにミハイルを含めお茶に招待するとしよう。日程は改めて連絡する。」
「はい…?」
シャーロットはリネアとの話が終わると私の所へ戻ってきた。
「ユーラ、見てたの?」
目が合ったリネアが私に声をかけてきた。
なんとなく、今はこっちが知り合いだと思われたくない気分だ。
「…できれば見たくなかったんだけどね。」
「私、もうしばらくフィッシュアンドチップスは食べなくても良さそうだよ…。」
「…だろうね。」
「リネア、授業が始まるよ。」
セルゲイがリネアを呼ぶ。
「セルー、お腹痛くなってきた。気持ちも悪い…。」
「リネア…。」
その日の夜、食べすぎによる腹痛でリネアは寝込んだ。
セルゲイが心配で狼狽えていたのが微笑ましかった。
次の日登校したリネアは知らない生徒に声をかけられまくったらしい。この少女はやっぱりどこへ行ってもこの理解不能な行動力で目立ってしまうようだ。
唯一気になったのは早食いを一緒にしていたあの少年。
どこかで会ったことがある気がするがこの時は思い出せなかった…。




