皇太子の婚約者
広い食堂のテーブルの上にハーブやスパイスの効いたローストチキンをはじめ食べきれないほどのご馳走が並んでいる。どれも僕が好きなものばかりだ。たくさんの客人をもてなす為のこの部屋は壁に繊細な彫刻が施され、天井にはトップライトがあり日が暮れる直前まで光が入る。さすが国内随一の建築家を抱えているだけのことはある。調度品も世界中から集められた珍しいものばかり。こどもの頃から何度も出入りしていた場所だけどこんなにマジマジと見たのは初めてだった。
「こんなことで許されるとでも?」
最初に沈黙を破ったのは僕だ。
僕は今、目の前にいる男を睨んでいる。銀色に近いプラチナブロンドのさらさらストレートヘア、透き通るように青い目、人形のように整った顔だちの男は平然と食事を進める。
「早く食べないと冷めるよ。今日は君の好きなものばかり用意したんだ。次は新鮮なムール貝、ロブスターもあるからね。デザートはティラミスだよ。」
ムール貝にロブスター?こいつどんな裏技を使って手に入れたんだ?冷めないうちに早く食べなきゃ…ってそうじゃないっ!!
僕は唾を飲み込んだ。
「ごっ、ごまかすな!どういうつもりだって聞いているんだよ!婚約って何だよ?ふざけてんのか?!答えろ!」
僕が怒っているのに、こいつは全く気にせずロブスターを食べ始めた。ソースとロブスターのいい匂いに気を取られる。
「僕と公爵家の娘である君が婚約する事?身分的にも問題ないだろ?」
「そういうことを言っているんじゃない!…なんでこんな事をしたんだ?」
目の前の男はナイフとフォークを皿に置くと
「僕は皇太子だよ、君が一番分かっているはずじゃないか。」と僕の目を見てこう言った。
「僕は僕の正しいと思う選択をした。婚約者をめぐる争いなんて面倒極まりないし、何より僕は他人に興味がない。唯一心を許した君が何の運命のいたずらか婚約対象になったんだ。僕が自分の使える権力を行使して何が悪い?立っているものは親でも使えと言うだろう。
だいたい、こうなる前に君には十分な猶予があったはずだよ。僕は予め君に何度もヒントをだしていたし、婚約を回避できなかったのはつめの甘い君の落ち度だ。」
何を言っているんだ?なんで僕のせいでこうなったみたいな言い方をされなきゃいけないんだ…。
確かにこいつは昔からこの見た目と身分で女性にもてるのに全く関心がなかった。令嬢が目の前でこいつの気を引くために争っているのを見ると本当に嫌そうにしていたし、令嬢だけでなく基本的に他人が苦手だ。
だけど…だけどだ!あり得ない。
「長年親友をやっていたし君の立場は分からなくもない。婚約者争いにうんざりしているのも知っている。だけどどう考えてもおかしいだろう?」
「お前は僕の親友で、僕は元、男だったんだから…。」




