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丸耳エルフとねこドラゴン  作者: 晩夏ノ空
南方編

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31.保証人


「…ん?」

《あれ?》


 カイトたちの案内でやって来た場所に、イリスとラズライトは同時に首を傾げた。


 街の北西ブロック。

 見覚えのある小さな建物の裏口のドアノブに、ギアが躊躇なく手を掛ける。


「おやじ殿、居るか」


 表の扉は閉まっていたが、裏口は開いていた。

 全ての窓の鎧戸を閉め、完全に閉店状態なのだが、奥から青白い光が漏れている。


「おやじさん!」


 ギアに続いてカイトが大声で呼ぶと、すぐに工房主が顔を出した。


「お前ら、来るには早いだろ! ──って…」


 カイト、ギア、ナディと見て、イリスとラズライトに目を留め、工房主──ドワーフのタッカーがきょとんとした顔になった。



「なんだ、さっき振りだな、イリス、ラズライト」


『え!?』


 あっさり矛を収めて呟くタッカーに、カイトたちが驚いてこちらを振り返る。


《さっきぶり、タッカー》

「ども」

「え、知り合いなのか!?」


 カイトが混乱した顔で訊いて来る。

 ラズライトは頷いて、数年来の知り合いだよ、と答えた。


 タッカーとは、数年前、ラズライトがこの街に初めて立ち寄った時からの友人だ。

 ラズライトがドラゴンであると知る数少ない人物でもある。


《まあ、イリスとタッカーは午前中に初めて会ったんだけど》


「………世間は狭いな…」


 ギアが呆然と呻いた。


「何だ何だ、ラズライト、お前この小僧どもと知り合いなのか?」

《一昨日知り合ったんだよ。あ、ちなみにここに居るメンツ、全員僕の正体知ってるからね》

「お前…それで大丈夫なのか?」

《多分》


 多分かよ、と、タッカーが渋面を作る。豪快な見た目に似合わず心配性だ。


 まあ確かに、イリスを皮切りにラズライトの正体を知る人間が一気に増えたので、心配する気持ちも分からないでもない。


「おやじさん、んな顔しなくてもべらべら喋ったりしないって。こいつら、アインの命の恩人なんだ」


 カイトが苦笑し、ツインヘッド退治の顛末をかいつまんで説明する。


 ラズライトが居なければ大口トカゲの所在に気付かず、ツインヘッドの神経節を手に入れる事もできなかったし、イリスが居なければツインヘッドの神経節が完全解毒薬の材料になると知る事もできなかった、と。


「そいつぁ、運が良かったなあ」

「ええ、本当に」


 タッカーが呟くと、ナディが真顔で頷いた。

 タッカーは、カイトたちの仲間が特殊な毒で倒れた事も知っていたらしい。その顔には深い安堵が見えた。


「──ところでお前ら、何か用があって来たんじゃないか?」


「ああそうそう。おやじさん、ちょっとテーブル借りて良いか?」

「別に構わねぇが…炉には近付くなよ、今調整中だからよ」

「承知した」


 忠告だけして、タッカーがカウンター奥の扉の向こうへ消える。

 カイトたちと共に工房の一角にあるテーブルにつくと、タッカーがやかんを手に戻って来た。


 炉についていなくて良いのかと尋ねたら、


「今は一次供給魔力を馴染ませてるところでな。あと1時間ちょいは放置で大丈夫だ。そうやって、何段階かに分けて炉に魔力を込めるのよ」

「あ、だから時間が掛かるんだ」

「そういうこった」


 イリスに頷き、テキパキとテーブルの上に茶器を並べる。


《タッカー、お酒じゃないんだね》


 ドワーフの例に漏れず、タッカーも度数の高い酒を好む。

 既に夕刻ということもあり、てっきり酒を持ち出して来ると思っていたが、人数分の茶器に注がれたのは濃い目の麦茶だった。


「今日は特別だ。炉の準備から精錬まで、酒は飲んじゃならねぇって決まりがあるからな」


 ミスを少しでも減らすため、ドワーフたちの間で連綿と受け継がれてきたルールらしい。

 意外に硬派だ。


「いただきます」


 渡された麦茶を一口飲み、イリスが幸せそうに息をつく。

 そして茶器を置き、真面目な顔で背筋を伸ばした。


「早速本題に入らせてもらいたいんだけど──、タッカー、カイト、ギア、ナディ。誰か2人、私の冒険者登録の保証人になって欲しいんだ」


「良いぞ」

「保証人ならば、俺がなろう」


《即答!?》


 全く間を置かずに頷いたのは、タッカーとギアだった。

 ラズライトが思わず突っ込むと、タッカーが真顔で腕組みする。


「『アレ』を採って来てるかも知れない奴の保証人だぞ? 断る理由なんかねぇだろ」


 ミスリル原鉱入り(推定)のノジュールの威力は絶大だったようだ。


 では、ギアはどうなのだろうか。


「イリスは仲間の命の恩人だ。もちろん、喜んでサインしよう」


 このくらいで恩が返せるとは思っていないが、と、真面目な顔で言う。


「何だったら、俺も保証人になるぞ?」

「私も」


 カイトとナディも手を挙げるが、ギアが首を横に振る。


「いや。冒険者登録の保証人は、同じギルドで冒険者登録をした、経験年数5年以上の者でなければいけないはずだ。カイトは登録場所が違うし、ナディは経験年数が足りないだろう」


「そうなのか…」

「…残念だわ…」


《ギア、詳しいね?》

「俺も保証人付きで登録した冒険者だからな」


 ギアが薄らと苦笑する。


 ジュリアは保証人制度は例外的な措置だと言っていたが、意外と身近に居るものだ。


「もし良ければ、保証人が必要な理由を教えてくれないか?」


 ギアに訊かれ、イリスとラズライトは顔を見合わせる。


 なぜ保証人を必要とするのか、疑問に思うのは当然だ。

 イリスはあっさりとテーブルの上に書類を広げた。


「私の場合は、種族名と出身地が書けなくて…」

「2項目も?」


 首を傾げるナディに、イリスは肩を竦める。



「実は私、エルフなんだよね」


『エルフ!?』



 カイトたちとタッカーの声が、見事に重なった。


「──まあこの見た目だし、『出来損ない』みたいなもんなんだけど…この書類って、登録する時に嘘を書いてないかどうか魔法道具で確認するんでしょ? でも、正直にエルフって書いたら絶対疑われるし」

「ああ…だから空白にするしかないのか」


 カイトが納得したように呻いた。

 イリスがエルフだという件について、やたらあっさり信じている。


「なるほど。エルフだって言うなら、出身地も書けるわけねぇな。確か、エルフ以外の種族に集落の場所を教えちゃならねぇって決まりがあるんだろ?」

「そうそう」

「大事なんでしょうけど、こういう時は厄介なルールね…」

「そーなんだよ。私もこの書類書き始めてから気付いたんだけど」


 皆が理解を示してくれたのが嬉しいのか、イリスはやや大仰な仕草で頷く。


 その後、タッカーとギアがあっさりと書類にサインしてくれ、保証人問題は驚くほど早く解決した。



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