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【WEB版】もふもふ後宮幼女は冷徹帝の溺愛から逃げられない ~転生公主の崖っぷち救済絵巻~  作者: たちばな立花
四章:冷徹帝の優しい提案

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ある→ずっと言えなかったこと

「胡遊叔父さまは鬼なのです」


 愛紗は真顔で言う。あまりにも突飛なことを言う自覚はあった。胡遊を大切な弟だと思っている黎明には酷な話だろう。しかし、このままにしておけば、いつ寝首を搔かれるかわからない。


 黎明は長い睫毛を瞬かせた。


 ――信じがたい気持ちはわかるのよ。


 愛紗は心の中でうんうんと頷く。


「なぜ、そう思う?」

「叔父さまには影がないのよ。鬼は影がないでしょ? 鬼が本物の叔父さまの願い事を聞いて食べちゃったのかもしれない!」

「愛紗は頭のいい子だ。よく観察し、よく考えている」


 黎明は何度も愛紗の頭を撫でた。その心地よさについ目を細めてしまうのだが、今は心を強く持つときだ。愛紗は真剣に訴えるが、黎明は微笑むだけで真剣には取り合ってくれなかった。


「……やっぱり信じてもらえなかったのよ」


 愛紗は頬を膨らませ、つぶやく。


「すまない。信じていないわけではないんだ。確かに胡遊は鬼だ。私も知っている」

「ならっ!」

「だが、半分だけだ」

「半分?」

「ああ、もう半分は人間だ。私を殺すことはない。私が保証しよう。だから、安心しなさい」

「本当に?」

「本当だ。相棒に嘘はつかない」


 もっと聞きたいことはあったのだが、質問をする前にバタバタと人が戻ってきた。ありったけの毛皮を持ってきた宦官たちによって身体を包まれ、毛皮の山が出来上がる。


 それから少し経って、侍医も現れた。黎明は中断していた着替えを再開し、愛紗は手足に軟膏を塗られる。宴が近づいているためか、黎明と二人きりになる時間はなかった。






 大人たちは宴の時間まで忙しいのだろうが、愛紗は暇である。なにせ着替えてしまえば、あとは時間までやることはない。愛紗は忙しそうに働く黎明を置いて雛典宮へと戻ってきていた。


「おお、姫さんおかえり」


 呑気な十然が門の前で手を振り迎えた。まるで何事もなかったかのような気安さに、愛紗は十然をにらんだ。


 ――捜査中に突然消えた恨みは忘れないんだからっ。


「悪い悪い。陛下が見えたもんだからつい」


 十然は悪びれもせず言った。


「十然が消えたせいで大変だったんだから」

「俺がいても大変さはたいして変らないって」


 ――それはそうなんだけど。


 それとこれとは話が別と言うものだ。


「桃饅頭貰ってきてるから、機嫌治せ。な?」

「……桃饅頭。今日は頑張って働いたから疲れたのよ」

「まあ、そうだろうなぁ」


 十然は愛紗を抱き上げて、空を見上げた。ぽっかりと空いた晴天。キラキラと輝く太陽がまぶしいくらいだ。しかし、奇妙な形で厚い雲が広がっている。


「そういや、鬼退治がどうころんだら、陛下に新しい妃ができるんだ?」

「もう知っているの?」

「ああ、後宮中噂で持ちきりだ。どんな美女を目の前にしても眉一つ動かさない冷徹帝の心を動かした女はどんな女かってね」


 愛紗は苦笑を浮かべた。娯楽の少ない後宮内では、醜聞スキャンダルすら娯楽になる。あまり目立たない先帝の妃が見初められのだから、噂にならないほうがおかしいというものだろうか。


「これには海よりもふかーい訳があるのよ」


 愛紗は事の顛末を語った。


「つまり、宴に出してやるために妃にしたってことか?」

「あい」


 十然は納得がいっていない様子で唸った。


「何が不満なのよ」

「不思議だなと思っただけさ。姫さんの出席はごり押しだったわけだろう? 先帝の妃の出席なんて皇帝陛下の一言で通るだろ?」

「言われてみれば……。そんな気がしてきた」

「だろ? しかも陛下は妃を一人しか持たない人嫌い……じゃなかった。一途な方だ。そんな人が宴に出すためだけに妃を一人増やすかね?」

「たしかに。じゃあ、なんのために?」


 愛紗は首を傾げた。


「陛下の一目惚れ、とか?」

「そんな感じには見えなかったけど」

「姫さんに恋愛を語るような経験があるとは思えんが?」

「馬鹿ね。人間百回も転生すれば恋愛なんて何度も経験するのよ」

「それは人間としての記録だろ? そんなの恋愛小説を読んで『経験豊富』って言ってるのと同じじゃん」

「うるさいのよ!」


 愛紗は小さな手のひらを十然の口に押し付けた。それで彼の口が止まるわけもない。


「事実を言っただけだろ? それとも姫さん、俺の知らない間に恋を?」

「はいはい。どうせ、あたしは仙術馬鹿ですよー」


 軽口を叩くのはいつものことだが、これ以上からかわれてはかなわない。愛紗は十然の腕から抜け出すと、自分の部屋へと走った。


 部屋に用意された桃饅頭を一つ掴み、寝台の横にある棚から木箱を取り出す。愛紗は桃饅頭を口にくわえるながら、木箱を開けた。


 今朝見たときには、『宴の際、殺害される』という黎明の人生の最後の締めくくりが書かれていた。それがキチンと変わっているか確認するまでが愛紗の仕事だ。


 愛紗はその変化した文字を見て、頬を緩ませた。言葉を出そうとしたが、桃饅頭で口が塞がっていて、うまく喋ることはできない。


「お。今日も無事、危機回避したみたいだな?」


 十然が後ろから愛紗の手に持つ運命録を覗きみた。彼は細い目を更に補足して一文を見つめる。


「なるほど。そういうことか」


 二人は納得した様子で頷くのだ。


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