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【WEB版】もふもふ後宮幼女は冷徹帝の溺愛から逃げられない ~転生公主の崖っぷち救済絵巻~  作者: たちばな立花
第三話:鬼ばかりのかくれんぼ

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すぅ→伝言

 外に面した廊下を歩いていると、空が暗くなった。厚い雲が空を覆う。


「本日の宴も中止になりそうでございますね」


 侍女の言葉に、「それならいいんだけど」と愛紗は呟く。


 愛紗は足を止めて空を見上げた。侍女も合わせて足を止める。


「でも、宴はあるのよ」

「雨が降っては延期でございましょう」

「雨は止むのよ。……多分ね」


 予言めいた言葉に、侍女は「はあ」と曖昧な返事をする。納得がいっていないのだろう。


 今朝見た運命録は確かに宴が催されることになっていたのだ。この雲は愛紗が介入したものではない。で、あるならばこの曇りは運命の想定内の出来事である。


 もし、この後雨が降り、宴が中止になる運命ならば、運命録は最初から宴などと記すことはなかっただろう。


 厚い雲が世界から影を消す。


「ミンミンのお部屋は遠いのね」

「美明様はあまり大きな部屋を望まれませんでしたので」


 ふんふんと愛紗は侍女の言葉に頷いた。


「狭い部屋は手前にないのね」


 この宮殿は不便そうだ。愛紗の言葉に侍女は困ったように笑うばかりだった。


「この先の部屋が美明様のお部屋になります」


 美明みみんの部屋だと案内された場所は、宮殿の中では奥の奥。人気のないことに愛紗は感謝した。


 ――殺気を隠そうともしないなんて。


 扉越しにでもわかる殺気。それは真っ直ぐ愛紗に向けられていた。


 微動だにしない愛紗に侍女は困惑している様子で目を何度も瞬かせている。


 こうも人間は鈍感なものか。愛紗は侍女を見上げた。


「あたしね、お父さまとかくれんぼの途中だったことを思い出したのよ」

「は、はあ」

「お父さまね、宮殿を出たところにある庭園の大きな木の上に隠れているのよ。伝言をしてもらいたいの」

「はい」

「『探すのに飽きたので、次は鬼ごっこしましょ。逃げてください』って。よろしくなのよ」

「かしこまりました。愛紗様のお父様にで伝言を伝えさせていただきますね」


 侍女の背中に手を振る。途中「あれ、お父さま? お父さまって、へ、陛下では!?」という声が聞こえたが、そのころには愛紗の興味は扉の奥へと向かっていた。


 愛紗は殺気を身に浴びながら、扉をそろりと開ける。


 なぜだろうか。不意を狙われることはないように思えた。それは仙界で数千年生きた感のようなものだ。


 黎明を逃がせる算段がつけられたからこそ、大胆な行動に出られたと言ってもいい。


 扉を開けてすぐ、部屋の奥に女の姿を見つける。探す必要のないほど小さな部屋だった。


 一人分の寝台と、小さな卓子つくえ。おまけばかりの棚には少しばかりの荷物が置かれている。


 彼女は寝台の上に座っていた。


 まるで倉庫のような場所だ。日はほとんど入らず薄暗い。一概に天気のせいとも言えないと愛紗は思った。


 じめじめとした空気が物語る。この部屋は日が当たらない北側だ。


「鬼さん、みーつけた」


 愛紗はとおどろおどろしい空気を壊すような大きな声で言った。女は目を細めて笑う。


「愛紗様が自ら来てくださるなんて。思ってもみない幸運に感動いたしました」

「あたしも、ようやく見つけられて嬉しいのよ」

「あら、両想いですね。嬉しいわ」

「あなたの目的はお父さまでしょ?」

「お父様? ……ああ、あの男ね。そう。でも、今は愛紗様が必要だと思っていたところなの」


 美明はゆっくりと寝台から立ち上がる。愛嬌のある笑顔を見せると、一歩ずつ愛紗に近づく。


「あたしじゃ宴には連れて行けないのよ」

「そんなことないわ。あなたは唯一あの男に愛されている。あなたを使ってあの男を脅迫すれば、あの男は必ず私を宴へと連れて行ってくれるわ」


 美明は愛紗の前で膝をつく。視線が近づいた。ゆっくりと頭を撫でられ、愛紗は身構えた。


 ――そろそろお父さまに伝言は伝わったかな。


 少しでも時間を稼がなければならない。愛紗にとって黎明の命が最優先なのだ。真剣にかくれんぼの相手をしてくれた黎明のことだ、次の遊びの相手も真剣にしてくれるだろう。


 愛紗から離れることで、鬼から遠ざけることができる。


「こんな幼い子を怖がらせてごめんなさいね」


 何も言わない愛紗を見て、美明は愛紗が恐怖しているのだと思ったようだ。美明は笑う。口元は確かに笑っているが、目は笑っていない。


「なんで宴にこだわるの? お父さまを殺すのに宴である必要はないでしょ?」

「あら、そんなことまで知っているのね。……約束したからよ。この身体の持ち主と」

「やくそく?」

「ええ、彼女は私に言ったわ。『次の宴でただの一度だけでも舞を披露できたならば、この身の全てをあなたに捧げます』と」

「その約束を守るために宴に出ようとしてるの?」

「ええ、私は誇り高い鬼の一族よ。約束は守る。昨日は邪魔が入ってしまった。宴は三日。あと二回しかないもの。だから、今日は失敗できない。そのためにはあなたが必要なの」


 ――じゃあ、あたしが捕まらない限り、お父さまは狙われないのね。


「そっか。条件によっては協力しないこともないのよ」

「聞き分けのいい子は好きよ。条件は何かしら?」


 美明は笑みを深める。


 愛紗は屈託のない笑顔を返した。


「あたしと、かくれんぼしましょ!」


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