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【WEB版】もふもふ後宮幼女は冷徹帝の溺愛から逃げられない ~転生公主の崖っぷち救済絵巻~  作者: たちばな立花
第三話:消えた愛紗と死にそうな冷徹帝

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まー→愛紗の行方

 秀聖殿しゅうせいでんでは、ちょうどよく太監たいかんが山に積まれた大きな桃饅頭を運んでいるところだ。皇帝の命令で作った饅頭は特別美味しい。ところ構わず愛紗あいしゃは桃饅頭めがけて飛び上がった。

 

「わっ! 紗紗しゃしゃ様! これは愛紗様のものです。だめですよ! あげたら私が怒られます」

「みゃあ~」

「ほら、紗紗様にはこちらを差し上げますから」

「みゃっ!」

「わっ! 怒った! ……魚の骨は嫌いなのかな? 困ったなぁ~」

 

 名も知らない太監たいかんが秀聖殿の前で頭を抱える。持っていた桃饅頭をもらいに来たのだが、「だめだ」と隠されほとんど身がついていない魚の骨を渡された。

 

 残飯を渡されるのははじめてだ。

 

 はじめての屈辱。

 

 爪を立てて抗議するも、桃饅頭は子猫では届かないところへと避難されてしまった。

 

 ――こうなったら、人間に戻るまで暇を潰すしかなさそう。

 

 猫から人間に戻るところを誰かに見られるわけにはいかない。人目につかなくて、桃饅頭――秀聖殿に近いところ、と言えば。

 

 愛紗はぐるりとあたりを見回す。すぐ隣に黎明の寝所があるのに気づき、愛紗はそこへと向かった。

 

 ――ここなら、誰も来ないし、桃饅頭もすぐに食べられるし最高じゃない。

 

 寝慣れた寝台まであるのだから、言うことはない。愛紗は大きなあくびをすると、綺麗にたたまれた布団の中へするりと入った。

 



 

 

 愛紗が心地よく寝息を立てているとき、黎明と太監たちによる愛紗捜索は後宮の端から端までに及んでいた。

 

「どこにもおりません」

「草の根を分けて探しましたが、見つかりませんでした」

 

 うなだれる太監たちは泥で汚れている。後宮に住まう者たちはここを「籠の中」と比喩するが、たった一人の子どもすら見つけられないくらい大きな籠は籠と言えようか。

 

 黎明は大きなため息を漏らす。

 

「そろそろ昼時でございます。陛下、休憩をなさってから次を考えましょう」

「しかし……」

「愛紗様も腹が減って雛典宮へと戻っているやもしれません。それに、陛下のお召し物も汚れておりますから、一度着替えましょう」

「……そうだな。一度戻ろう」

 

 太監たちからも疲れが見えている。幼い子がこんなに探してもいない事実に焦燥感にかられるが、闇雲に探し続けても意味がないのも事実だった。

 

 黎明は太監をつれ秀聖殿へと戻る。愛紗が桃饅頭の匂いにつられて戻ってきていることを期待したが、現れたのは紗紗だったようだ。

 

 太監たちには休憩をとるように促し、己は着替えるために如余じょよとともに寝所へと戻った。

 

「愛紗様はどちらへ行かれたのでしょうね」

「怪我などしていないと良いが」

「愛紗様は少々お転婆……いえ、活発な方ですから、きっと大丈夫ですよ。その辺の猫を従えて戻ってくるくらいのことはなさる方です」

「そうだな」

 

 愛紗のことだ。いつもの時間になれば、秀聖殿に顔を出し“夜伽”をねだるに違いない。そう言い聞かせているというのに、悪いほうへと考えを巡らせてしまう。

 

「しかし、ここまでして見つからないのは少し心配ですから、昼は衛兵にも参加していただきましょう。陛下は秀聖殿でお待ちください。愛紗様が戻ってくるとしたら、秀聖殿か雛典宮でしょうから」

「そうだな。あとは頼んだ」

 

 着替えを終え、大きなため息を吐き出したときだ。

 

 衣擦れの音が耳に入り、黎明は息を止めた。如余も同じ音を感じ取ったようで、視線は平行線を辿ったまま、寝台へと向けられる。

 

 夜には寝台の中を隠すために使われるうすぎぬは、紐で括られている。女官たちは黎明が朝儀ちょうぎに出ると寝台を整えるのだが、今日はいつもと様子が違った。――布団が乱れているのだ。

 

 そろりと近づき布団をゆっくりまくりあげると、猫のように小さく丸くなって寝息を立てる愛紗がいた。今朝、別れたままの格好だ。紗紗を探して寝所に来たのかはわからない。頬に土汚れを見つけ親指の腹で拭う。

 

 黎明が愛紗を探すのと同じように、彼女も紗紗を探して草木をかき分けたのか。

 

「こんなところにいたとは……」

「ようございました。私は皆に知らせて参ります」

 

 小さく呟くと、如余は目を細め微笑み頷く。そして、彼は静かに寝所を後にした。

 

「見つからないはずだ」

 

 朝の掃除を除いて、寝所の立ち入りは禁止されている。常に侍衛が三人見張っているので、こっそり入ることも難しいのだ。以前、愛紗が寝所で隠れていたことがある。その抜け道をつかったのだろう。

 

 ここに黎明が立ち寄らなければ、愛紗が目を覚ますまで誰も気がつかなかった。

 

 寝台の端に腰を下ろす。乱れた髪をゆっくりと撫でれば、愛紗の眉がわずかに寄せられる。

 

「……れ、……しの……」

「愛紗?」

 

 彼女は小さな唇を尖らせる。瞳は閉じられたままだ。夢でも見ているのだろう。どんな夢を見ているのか気になって、耳をそばだてた。

 

「……あたしは魚の骨なんて食べないもん……」

 

 愛紗は小さく頬を膨らませ、小さな手を振り回す。自分も猫にでもなったつもりなのか、爪が黎明の手に当たった。

 

 

 第三話 おしまい


お読みいただきありがとうございます♡

次回は幕間そのさんを二話お届け予定です。


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