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異邦の三人  作者: 霊鷲山暁灰
第2章 異世界の三人
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魔法少女サタニックマリィ編 3

 事務所に到着する少し前くらいに、ゴノークから絵美里、リリーと合流できたとの報告があった。数度彼と言葉を交わし、事務所に入る。

「まだ戻らんのか松田は。可奈子様を無事にお救いしてくれた事に関しては、いくら感謝してもしきれんがな、本人がいないのでは礼のしようもないぞ!」

「だからあ、生きているのは確かとさっきから何べんも何べんも言っとりゃあす。豊助さんに何かあれば、まずあちきらが呼ばれますえ。そうでなけりゃあ勝手に戻ってきんす」

 男と女が言い争っている。

 女の方は横長の瞳孔を持った和装の美女だった。

 男の方はハンチング帽にトレンチコートを着用、体格がいい。

「はあ、仕方ない。俺も今夜は徹夜で事後処理だ。御蔵も松田も、帝都湾にクソ飛行船なんぞ落としやがって……警察の身にもなりやがれってんだ」

「まだ帰ってなかったのか警察の人間」

 やぶめがその男を見とがめた。かなり無礼な口だが、警察官は慣れているようだった。

「やぶめか。今帰るところだよ。いや、帰れねえんだが」

 警官が出ていく。

 松田探偵事務所にはやぶめ、あぜみ、真里の女3人だけとなった。


まり「今の警察の人は?」

探偵「えっ!? ハァハァ……すいません。彼は廣川警部です――すいません、ちょっとこちら立て込んでいるので失礼します」


 九郎の声が聞こえなくなった。確か彼はゴノークの世界、魔法世界マギノニアに飛ばされたはずだ。

 トラブルがあったのだろうが、どのようなトラブルかまでは分からない。

「こいつが言うには九音卿殿は無事だそうだ……。ちょっとこっちに来れねえらしいんだが……俺にはさっぱりわかんねえ……」

「ほう、九音卿は無事と」

「え? ええ、大丈夫です。何ともありません!」

 無事ということにしておいた。

「面妖な鏡と会話して九音卿だと言い張るんだが……俺には何の声も聞こえねえぞ……」

 やぶめが指しているのはサタニックパクトのことだ。

 面妖とは心外だったが、コンパクトに向かって一方的に話しかけている人間がいたら確かに面妖だ。

 真里の世界では腕時計サイズの電話すら普及しているが、サタニックパクトの様にきらびやかな化粧道具を模したモバイル端末など見たことがない。

「へえへえ、ちょっと貸しておくんなんし」

 いつの間にか、サタニックパクトがあぜみに奪い取られていた。

 1年間魔法少女として戦ってきて、真里のサタニックパクトが奪われたのはただの1度きり。一般人に変装して真里に近づいてきた敵幹部ダゴンの姦計にかかったときだけだ。

 そのサタニックパクトを、あぜみが興味深そうにいじっている。

「んー、もうちょうチャチいかと思うとりゃしたが、意外としっかりとした材料使っとりゃすなあ。瘴気とも気とも違う力が詰まっとりゃすし。あんさん本当にただの子供かえ?」

「おい……俺にも寄こせ……」

「ちょう、やぶめ、横から触らんといてや。蛇臭いのが移りゃあす」

 あぜみとやぶめの雰囲気が険悪になってきた。この2人が20年も殺し合いをしていたという九郎の言葉は本当だったのだろうか。

「寄こせっつってんだろ……殺すぞ……」

 やぶめがあぜみの肩までかかった黒髪を掴む。妙齢の美女の外見でやると、かなり異様な光景だ。

「ちょっ、やぶめさん!?」

 真里は思わず叫んだ。生々しい暴力に背筋がぞわぞわする。

 あぜみの髪は、地面からつま先が浮くくらいに強い力で掴まれていた。

 しかし、あぜみの表情は変わらない。人のいい笑みを浮かべたままだ。

「ったく、真里さん驚ろーとりゃすやろ。本当、臭い臭い蛇だえ」

 あぜみはやぶめの首を音がするくらいにパクトを持ってない片手で掴むと、そのまま近くの物入れに頭をぶつけた。

 物入れの角がめり込むほどの強い力だ。

 確実に頭蓋が割れている。脳にまで達している。

「やぶめさあん!?」

 目の前の殺人に、真里が悲鳴を上げた。血の気が失せ、失神寸前だ。

 だがやぶめは何事もなかったかのようにあぜみの髪を放すと、服の袖で額の血を拭おうとした。

「め、だえ。九音卿殿に言われとりゃあすやろ。服を汚すなって」

 あぜみの投げたハンカチで血を拭う。物入れに付いた血以外は元通りだ。

「分かってる。忘れてただけだ……」

 脳挫傷を受けたやぶめはけろっとしている。まるでこれが日常茶飯事だと言わんばかりだった。

「こいつにも貸してええかえ?」

「え、はい、どうぞ」

 真里は力なく応答した。もう疲れた。いつも9時には寝ているのだ。早く寝たい。

「ふーん……これ宝石か……? 外れんのか……?」

 やぶめが無理矢理パクトを破壊しようとしたので、再びあぜみの制裁が入った。脳汁が物入れの角を汚す。

 真里の意識は一瞬落ちた。



「ほんであんさんが魔法少女……って妖術使いの類やないんかえ?」

 真里はサタニックパクトと魔法少女について最低限の説明をした。

 やぶめはともかく、あぜみはある程度の理解を示したようだった。

「魔法少女は……ええと……自分でもうまく説明できないんです。実際変身見てもらった方が早いんだけど……」

 魔法少女の正体は原則秘密だ。変身さえ見られなければ、魔法少女状態の顔を見られても正体はバレない。リリーは暗示迷彩がどうの認識災害がどうの言っていたが、真里にはよく分からなかった。

 とはいえ、ここまで説明してしまった手前変身せざるを得ないだろう。妖怪呼ばわりで退治されるのは避けたかった。

「じゃあ、変身します」

 サタニックパクトを開き、感情を昂らせる。変身するには集中するよりも感情的になったほうがいい。特に闘志には反応が良く、ベルゼビーストを前にすればスムーズに変身できる。

 しかしサタニックパクトのエネルギー源は魔界だ。この異世界では魔法はおろか変身すらできないかもしれない。

 とにもかくにも、試してみないことには始まらない。

変身フィア・セレマ!」

 サタニックパクトに力が漲る。

 真里の裸身を光が包み、黒いゴスロリ服に変わっていく。2つに結んだ黒髪が煌めく金色に染まった。

 この間0.001秒に過ぎない。

 外から見ているものには、魔方陣が一瞬光って消えただけに映るだろう。

「魔法少女サタニックマリィ!」

 つい癖で名乗ってしまった。これは別にやらなくてもいいことだ。恥ずかしい。

 変身完了後、サバトワールドが自動的に展開する。ベルゼビーストの破壊から渋川市を守る大事な術式だ。破られそうになったのはただ1度、サドー公爵との決戦だけだった。

「なんやねこの結界。強度があんじょうヤバいえ」

「地脈が変だぞ……外から完全に切り離されてるみてえだ……。こんな結界知らねえよ……」

 あぜみとやぶめが驚いている。やはり、この世界にとってはかなりイレギュラーな術式らしい。

 ともあれ、これでベルゼビーストの様に強力な敵が出ても戦う力が残っていることが証明できた。

 魔法少女サタニックマリィは、九郎やゴノークと協力して元の世界に戻る方法を探そうと誓う。


雷鳥「うむ、強力な結界魔法だ。近似世界の魔力を流入しつつ、位相の量子的不確定化も行っておる。結界の外側から『破壊されていない』という結果を観測すれば、『破壊されていない』という事象に収束してしまうぞ」

まり「リリーもそんな感じのこと言ってました。わたしにはさっぱりだったけど」

探偵「ともあれ、これで異世界転移の仕組みも分かってきましたね」

まり「あ、九郎さん。トラブルは大丈夫だったんですか?」

探偵「ええ、ご心配をおかけしました。どうにかこうにか片付きましたよ」

雷鳥「で、転移の仕組みとはなんだ? 儂には大体わかっておるので、お主の答えを採点してやろう」

探偵「我々全員、空間を操作する強力な術式を同時使用した結果、お互いの術式が干渉し合い異世界に転移してしまった――というところでしょう」

雷鳥「90点だな。解決の方法が分からないぞ」

探偵「ではあなたには分かるのですか?」

雷鳥「分かるわけなかろうが。そもそも儂の空間操作魔法は、馬鹿弟子のを拝借して弄ったにすぎんわ」

探偵「はい、今日は解散しましょうか」


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