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異邦の三人  作者: 霊鷲山暁灰
第1章 決戦の三人
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魔法少女サタニックマリィ編 1

 午後10時。渋川市民会館。

 ガラスの外壁が、赤い空を映す。

 禍々しい赤は通常の夜空ではない。サバトワールドという結界の中だ。

 赤い空、黒い竜翼型魔方陣を背に飛ぶのは金髪を2つに結んだ少女だった。

 ところどころにフリルの付いた黒い服は所謂ゴシックロリータの類。

 雷光にも似た紫のビーム。上方に回避すると、渋川市民会館の外壁が耳を聾するような破裂音を立てて割れた。

 彼女は気にするそぶりもなく叫ぶ。

「サドー公爵! どうしてこの渋川市を執拗に狙うの!」

 その視線の先にはおよそこの世の者とは思えぬ男がいた。無数の血管が浮いた筋骨隆々の青い肌に、白い仮面をつけている。二の腕が丸出しの黒いローブは有り余る力を見せつけるようだ。

 背の竜翼型魔法陣は6枚。それは彼が魔界の公爵位にあることを示す。

 サドー公爵は堂々とした声で少女に答えた。

「この街を狙う理由だと? ククク、知れたこと。この渋川市が日本のへそだからだ!」

 公爵はもう1発ビームを打つ。少女は右手のコンパクトを突き出し、盾型魔法陣で防いだ。

 少女の飛行姿勢が崩れ、隙を晒す。

「日本のへそを支配することでスムーズに日本を支配する! 次に環太平洋地域を支配し、最終的には世界を魔界の力で満たすのだ。この秘密結社『ソドム365日』がな!」

「くっ、日本の次に狙うのが東アジアとかじゃなくて環太平洋だなんて、経済を見通す力がある!」

 気圧された時にはもう遅い。3発目のビームが少女に向かって放たれた。

「終わりだ! 魔法少女サタニックマリィ!」

 魔界のテロ組織『ソドム365日』の首魁、サドー公爵との最終決戦。

 金髪の少女、マリィはその圧倒的な力の前に思わず目を閉じた。

 しかし、ビームはマリィの翼を少々掠っただけだった。

 力を逸らした者がいる。

 もう1人の魔法少女だ。

「公爵くんオッスオッス! 冷えてるかー?」

「貴様!」

 仮面の下、サドー公爵の赤い目が怒りに見開かれた。

「エミリィちゃん!」

 青い髪の魔法少女。マリィと同じくゴスロリ服だが、キュロットスカート状の装束は見たものに活発な印象を抱かせる。その名を魔法少女デモニックエミリィ。

 将来の夢はユー〇ューバー。ゲ〇〇ルノの台詞を日常会話に織り交ぜてくるのが玉に瑕の、マリィと同じ小学5年生11歳だ。

「マリィ、大丈夫!?」

 そしてもう1人、白ゴスに紫髪の魔法少女が追い付いてきた。

 魔法少女ダゴニックリリィ。

 元『ソドム365日』幹部、ダゴン。マリィとの死闘の果てに和解、魔法少女の仲間に加わった。

「サドー公爵、私はお前を許さない! 父の仇、今こそ討つ!」

 そして、魔界出身のリリィはかつてサドー公爵に父を殺された過去を持つ。幹部ダゴンとして活動していた時期は、公爵による洗脳を受けていたのだ。

「知らぬ……。貴様の父など……知らぬ……!」

 なぜか仮面を抑え悶絶する公爵。

 その隙を、魔法少女は逃さない。

「今や!」

 エミリィの合図で魔法少女たちが動いた。

 渋川市民会館の上空に逃げる公爵を3人の魔法少女が包囲する。

「サタニックパクト!」

 マリィは己のコンパクト型魔法少女専用汎用魔道具――サタニックパクトを再び掲げる。

 マリィのような少女が持っているため、一見すると安っぽいプラスチック製のおもちゃにも見える。

 実際のところは魔界のみに生える高級木材と莫大な魔力を秘めた魔界の宝石で装飾された、世界の守護者たる魔法少女にふさわしい立派な武具だ。

「デモニックパクト!」

「ダゴニックパクト!」

 他の魔法少女もコンパクトを突き出した。

 今こそ放つ、世界の闇より生み出された魔獣、数多のベルゼビーストを葬ってきた必殺技。

「サタニックビーム!」

「悔い改めて! デモニックビーム!」

「ダゴニックビーム!」

 少女たちの髪色と同じ光が3方向からサドー公爵に命中した。

 莫大な熱量による水蒸気爆発。

 煙が公爵の姿を隠す。

「倒した!?」

 リリィは冷や汗を垂らしながら煙を凝視した。

 しかし、その台詞の後に倒された敵はいない。

「おのれ魔法少女どもめ! 我が本気、今こそ見せてやろう!」

 全身無数の盾型魔法陣により攻撃を無効化。『ソドム365日』首領の肩書は伊達ではない。

 反撃の為に練り上げた魔力は、魔法少女たちの想像をはるかに超えたものだった。

「まずいで、サバトワールドが崩れる!」

 サバトワールドはただの結界ではない。

 結界内で起きた無生物、植物の破壊は修復を受け、現実には反映されない。

 サバトワールドが破られるということは現実世界の破壊とイコールだった。

 外にはまだ一般人がいる。

 戦闘による破壊は、間違いなく死傷者を出すだろう。

「わたしがサバトワールドを維持するから、2人は公爵を攻撃して! 早く!」

 マリィはサタニックパクトに力を込めた。

 攻撃中は公爵も無防備だ。今狙えば倒せるかもしれない。

「デモニックビーム!」

「ダゴニックビーム!」

「ダークネス――!」

 西部劇じみた早撃ち勝負を制したのは――魔法少女だ。

「ぐわああああああ! 力が、暴発する!!」

 サドー公爵の魔力は、思わぬ干渉により暴発。

 その爆発は、マリィをも巻き込んで結界内をかき回す。

 光の奔流。

「マリィ!」

「マリィィィィィィ!!!」

 少女たちが悲鳴を上げた。

 とくにマリィに懐いていたリリィは悲愴だ。

 サバトワールドが崩れ、渋川市民会館が修復されていく。

 後に残ったのは、変身の解けた魔法少女2人。

 他には誰もいない。サドー公爵すらも。

「真里……そんな……私は……また大切な人を……」

 リリィ――人間界では吉田リリーを名乗っている魔界の少女はその場に崩れ落ちた。

 エミリィ――嵯峨絵美里はかける言葉を失う。

 その夜、魔法少女サタニックマリィ――吉田真里はこの世界から消えた。

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