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第五話:温泉湯煙旅情派地獄変


 

 

 

「ふわー、やっと着いたー!」

 バスから降りた弥生は、大きく伸びをする。

 ここは某県の山奥、ひなびた温泉街である。アキラが福引で当てた温泉旅行招待券。それを無駄にする理由もなく、五人はやって来たのだ。

 身軽な開放感に溢れた装いで、バスを下りる四人の女性陣。その後から、全員分の荷物を背負った唯一の男、一文字アキラが続く。

 『荷物持ちは頼れる男の仕事』とのせられて押し付けられた荷物。しかし、馬鹿みたいに力のあるアキラは、大して苦痛にも感じてはいないようだ。まさにタフガイ、女の尻に敷かれるために、生まれてきた男。

「弥生ちゃん、本当に私がついてきちゃっても良かったんですか?」

 瑞穂が尋ねる。

「いいのよ。どうせタダなんだし、遠慮する事なんてないわ」

 そんなふたりを、微笑ましそうに眺める真由美。その後に無表情で続くフュリス。

 やがて一行は、一軒の旅館に辿り着く。老舗らしい風格を感じさせる佇まい。まさに温泉旅館の中の温泉旅館である。

 中に入ると、早速女将が出迎えてくれた。

「ようこそ、いらっしゃいました。ささ、お部屋へご案内します」

 女将の後に続き、部屋へと通される。和風でまとめられた部屋。窓からは美しい山並みが一望できる。

 ……しかし、ここでひとつの問題が持ち上がった。割り当てられた部屋は、ふたつ。そして、男はアキラひとりだけ。どう部屋割りをしたら良いものか。

 女性陣で集まって、相談する。

「アキラと一緒の部屋なんて冗談じゃないわ。ましてやふたりっきりなんて絶対イヤ!」

「あの、私も男の人と一緒の部屋は、ちょっと……」

 弥生と瑞穂はアキラと一緒の部屋は反対のようだ。まぁ、年頃の女の子というものは、そういうものなのだろうが。

「あら、それじゃあ私がアキラさんと一緒の部屋にしようかしら」

「それもダメっ!」

 真由美がにこやかに言うが、即座に否定する。まったく危機感の欠片も無い母親に、弥生は呆れ果てる。

 しかし、それでは誰がアキラと一緒の部屋になるのか。最悪、彼ひとりだけ別の部屋という事になるのか。

 その時、今まで沈黙を続けていたフュリスが口を開く。

「私が、アキラと一緒の部屋でいいです」

 一同は少女の方を見る。

「そうね……流石にアキラも、こんな小さな子に手は出さないわよね」

「それにフュリスちゃんなら、アキラさんの事もよく知ってるし……」

「私は、別々の部屋なら、何でもいいです……」

 こうして、すったもんだの挙句、部屋割りは決まったのだった。

 

 

 

 部屋に荷物を下ろし、早速一同は旅館の中を歩き回る。特に物珍しいものがあるわけでもないのだが、これも旅行の醍醐味というものであろう。

 ぺたぺたと、板張りの廊下を歩く。

「ねぇ、ここの温泉ってやっぱり露天風呂かな?」

「そうねぇ。もしかしたら、混浴かもしれないわねぇ」

 微笑みながら、さらっと言う真由美。

 ……。

 女性達は、一斉にアキラのほうを見る。

「変態!」

「……エッチ、だと思います……」

「死ねば?」

 投げかけられる、三者三様のきつい一言。

「俺が何をしたというんだ?」

「これからするんじゃないの、馬鹿!」

 発端の真由美は、ニコニコとそんなやりとりを眺める。言葉の暴力で痛めつけられるアキラ。実に平和な温泉でのひと時であった。

 結局、温泉は露天ではあったが、混浴ではなかった。辛うじてアキラは犯罪者にならずに済んだのである。

 自室でごろごろとするアキラ。フュリスは何やら帳面を前に仕事をしている。

「フュリスも、こんな時くらい仕事を忘れろよ」

 少女は無表情の中に、呆れたような顔を覗かせる。

「誰のおかげで、仕事が増えたと思っているんですか。アキラが毎回余計な事に出動するから、余計な出費が増えるんです。誰が本部に報告して、予算を回してもらっているか、分かりますか?」

「必要経費だろ?」

 少女はため息ひとつ。

「川で溺れている子猫を助けるために、わざわざスーツを着装する人が、どこにいるんですか? 他にも、酔っ払いの喧嘩の仲裁、街頭のゴミ掃除、お婆さんの荷物持ち……どこに必然性が?」

「このハートに、燃える正義があるからだっ!」

 フュリスは無言でポケットから小さな何かを取り出す。そしてブンと腕を振ると、それはハリセンに姿を変える。宇宙芸人御用達、持ち運びに便利な携帯ハリセン。

 スパーーンッ!

 部屋に響く小気味よい音。彼女の苦労は、まだまだ続きそうであった。

 

 

 

 そして日が暮れて。

「フュリスちゃーん、お風呂に行くわよー?」

 ノックと共に、真由美が顔を覗かせる。帳面を前に難しい顔をしていたフュリスも、その声に入浴道具をまとめて後についていく。

 頭から煙を出して倒れていたアキラも、むっくりと起き上がり、入浴の支度を始める。

「ここの温泉は、打ち身には効くのだろうか……」

 頭を撫でながら、部屋から出る。少なくとも、馬鹿は治るまい。長い廊下を歩き、目的の場所へと辿り着くアキラ。暖簾の下がった入り口。大きく『男』『女』と書かれている。

 勿論、アキラはお約束のように男湯と女湯を間違えたりはしない。ジェントルマンである。実にサービス精神の足りない男だ。

 服を脱ぎ、奥へ進むと、視界が真っ白な湯気で覆われる。そして一陣の風と共にそれが晴れると、目の前に広がる広い露天風呂。

「……うむ、こうでなくてはな」

 早速かけ湯をし、湯につかる。大きく伸びをし、手足を伸ばす。この開放感こそ、露天風呂の醍醐味であろう。

 再び風が吹き、湯煙がたなびくと、その向こうにひとつの影。どうやら先客がいたらしい。

「ふははは……ようやく現れたな、ブレイバー」

「何だと、何者だ貴様?」

 その問いかけに、影はざばぁと湯を溢れさせて、立ち上がる。

「俺は温泉怪人ノボリベーツ……」

 そこまで言うと、怪人はざばぁんと湯の中にぶっ倒れる。

「……おい、大丈夫か?」

 アキラはぷかぷかと湯に漂う怪人に声をかける。ややあって、怪人はふらふらと立ち上がった。

「おのれブレイバー……貴様がなかなか来ないから、すっかり湯当たりしてしまったではないか……」

「温泉怪人の癖に、湯当たりするのか」

 看板に偽りありとは、この事であろう。しかし、そんな事にはお構いなく、ノボリベーツはファイティングポーズをとる。

「勝負だ、ブレイバー!」

「いいから、前を隠せ。見苦しいものをぶらぶらさせるな」

 戦う前から、ブレイバー・げんなりモードである。そもそもくつろぎに来たのに、何故戦わなければならないのか。勝負ならば他の所でもいいだろうに。

「分かったから、後で相手をしてやる。湯から上がったら旅館の前で待っていろ」

「今ここでなければ意味が無い! 尋常に勝負だ!」

 ※説明しよう。温泉怪人ノボリベーツは、湯につかっている事によって、その能力を何倍にも高める事ができるのだ!

「いわばここは俺のホームグラウンド。貴様に勝ち目はないぞ、ブレイバー!」

「いいからタオルでも腰に巻け。非常に不愉快だ」

 構わずノボリベーツはシュッシュとパンチを繰り出す。仕方なくアキラも腰にタオルを巻き、立ち上がる。

「俺の憩いのひと時のためにも、すぐに終わりにしてやる。瞬着!」

 ……。

「瞬着!」

 …………。

 しかし、コンバットスーツは転送されてこない。ヘルメットすら、影も形も無い。

「……はっ、そういえばフュリスもここに来ているのか!?」

 承認を得てスーツを転送してくれるフュリスがここにいるという事は、いくら叫んでもコンバットスーツは転送されてこないのだ。

「どうしたブレイバー、かかってこないのならば、こちらから行くぞ!」

 怪人は湯船からジャンプし、両足を揃えて飛び蹴りを仕掛けてくる。

「なんの、断罪ガード!」

 両腕をクロスさせ、その蹴りを受け止める。

「たとえスーツが無くとも、俺は負けん! 行くぞ怪人!」

 

 

 

 かぽーん……

「うーん、気持ちいいー」

 弥生はゆっくりと湯の中で伸びをする。ここ、女風呂には綺麗どころが四人も勢ぞろい。

お見せできないのが、実に残念である。

「それにしても、弥生も色々と成長したわねぇ……」

 真由美が弥生の姿を眺めて、そう感想を漏らす。そう言う真由美は、実にダイナマイトなボディーをしているのだが。まさにばいんばいんである。

「いいなぁ……私も、弥生ちゃんくらいスタイルが良ければなぁ……」

 しみじみと瑞穂が呟く。

「そう言う瑞穂だって、お肌すべすべだし……それに胸だって、いつかは大きくなるわ」

「そうかなぁ……」

「なんだったら、私が揉んで大きくしてあげよっか?」

「きゃ、ちょっと弥生ちゃん!」

「……何やってるんだか」

 ひとり静かに、フュリスは湯につかっていた。

 ばしゃーん! ざばーん!

 すると、男湯の方がなにやら騒がしい。

「あらあら、どうしたのかしら?」

「きっとアキラが、ひとりで大騒ぎしているんでしょう」

 何でもないことのように、フュリスが答える。

 どぱーん! ばしゃーん!

「あの馬鹿、静かに入浴もできないのかしら」

「だから馬鹿なんです」

 メキメキ……ピシッ!

「……なに?」

 突如として、男湯との境目の板壁にヒビが入る。そしてそのまま大崩壊。破片と共に女湯に飛び込んでくるふたつの影。

「おとなしく死ねっ、ブレイバー!」

「何の、俺は負けない!」

 ……。

 気がつけば、ふたりを囲む裸の女性達の姿。静寂が辺りに満ちる。

「……き」

「「きゃああぁぁぁ!」」

 タオルで身を隠し、手当たり次第に辺りの物を投げつける女性達。

「ちょ、待てっ! これはアクシデントだ! いててっ!」

「このド変態! 死になさいっ!」

 弥生の投げた桶が、顔面にヒットする。もんどりうって倒れるアキラ。

「そこのアンタも、地獄に行け!」

 怪人に襲い掛かる、飛来物の嵐。もう、ボコボコである。

「……おのれぇ、この温泉怪人ノボリベーツによくも……!」

 その怪人の前に、無表情で立つフュリス。その手には、ハリセン。

「死ね、変態」

 ドバチーーーン!

 猛烈な一撃を受けて、垣根を越えて外に吹っ飛んでいく怪人。そして、爆発。

 ……こうして、実にあっけなく悪は滅びた。……アキラと共に。

 そして結局女性陣は、旅行が終わるまでバリバリに敵意を燃やしていた。アキラにとって、この旅行は骨休みにはならないのだった。

というわけで、サービスもあまり無い内容。

とほほ。でも感想待っています。

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