表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

第四話:商店街は戦いに揺れて


 

 

 

 昼下がりの商店街。そこを、両手に大きな袋を抱えたアキラが歩いていた。

 正義の味方というもの、常に世のため、人のため。そんな訳で、彼はお使いも進んで引き受けるのだった。

「ふむ、後はニンジンと玉葱とジャガイモ……」

 手書きのお使いメモ。真由美の直筆で、『お願いね♪』と記されている。頼りにされては、アキラも張り切るというものだ。駆け足で八百屋に向かう。

「おっさん、このメモに書かれている物、全部くれ!」

「あいよ、毎度ありー!」

 一文字アキラ、値切りはしない主義。これで買い物の残りは肉屋で買うものだけになった。更に重くなった袋を抱え、肉屋へ向かう。そこに、背後からかかる声。

「待ちな兄ちゃん、たくさん買ってもらったから、これ持ってけ!」

 八百屋の親父から手渡される紙切れ。

「何だ、これは?」

「福引券だよ。ほれ、そこでやってる……」

 親父の示す方を見れば、人だかりができている。傍らの看板には大書で『花丸商店街 大感謝福引大会』と書いてある。

 アキラの中の闘争本能に、火が灯る。これで一等を当てれば、真由美さんも大喜びだ。晩御飯も特盛りサービスになるかもしれない。

 早速福引券を片手に、意気揚々とそこへと……。

「おっと、その前に肉を買わねば」

 思い出したように振り返り、肉屋を目指す。その後ろ姿を、ひとりの妖しげな男が眺めていた。

「くっくっく、ブレイバーめ、貴様の好きにはさせんぞ……」

 

 

 

 肉屋での買い物も終わり、アキラは福引所へ向かう。すでに長蛇の列ができている。その最後尾に、荷物を抱えたまま並ぶ。順番はきちんと守らねばならない。宇宙刑事の鉄則である。

 やがて徐々に列は減り、もうすぐアキラの番になりそうだ。前の人々は、ことごとくハズレのティッシュをお持ち帰りしている。つまり、それだけ当たりに近づいているということだ。

 そしていよいよアキラの番が来た。腕まくりをし、準備万端整える。チャンスはただ一回。失敗は許されない、非情の世界だ。

「福引一回、いいところ頼む!」

「はい、どうぞ」

 目の前には、艶やかに輝くガラポン。そのレバーは、いまや遅しと回されるのを待っている。そしてアキラは、ゆっくりとそのレバーに手をかけ……。

「ちょっと待てーい!」

 背後からかかる、ちょっと待ったコール。振り返ると、そこにはひとりの男の姿。

「……何だ? 俺は今忙しいのだ。用事なら後にしてくれ」

「そうはいかんぞ一文字アキラ……いや、ブレイバー!」

「何者だ、貴様?」

 男はゆっくりと着ていたコートを脱ぎ……その正体を現す。

 その姿は、全身きらびやかな電飾に覆われ、ピカピカと光り輝いている。

 そして腹に大きく一際輝く『大安売り』の文字。

「俺の名は、怪人マツキーヨ! ブレイバー、貴様の命、貰い受ける!」

「ちょっと待て、ひとつ聞きたいんだが……」

 にじり寄る怪人に待ったをかけ、アキラはぽりぽりと頬を掻きながら、尋ねる。

「その電飾、どういう仕組みで光ってるんだ?」

「ふっふっふ、決まっているだろう。そこのコンセントから電気を……」

 見れば、怪人の尻から延びたコードが、電気屋の中へと続いている。

「……電気の窃盗じゃないか!」

「あれだけピカピカ光っているのだ、このくらい頂いても、問題無い!」

 開き直る怪人に、アキラの怒りに火がつく。

「許せんぞ怪人! 電気を大切にと、あれほどコマーシャルされているというのに! この俺が、成敗してやる!」

「面白い。さぁ、かかって来い!」

 ふたりが戦闘体勢に入る。その時、突如プツンとマツキーヨの電飾が消えた。

「……駄目だよ、君。うちのコンセント勝手に使っちゃ」

 コンセント片手に出てくる、電気屋の店員。

「あ、どうもすみません」

 ぺこぺこと謝る怪人。電飾が消えると、すっかり地味になった上に、性格までおとなしくなってしまった。

「とりあえず、行くぞ怪人!」

「あ、でも、ちょっと待って……コンセント差さないと……」

 しかしアキラは聞く耳も持たず、先制のパンチを繰り出す。

「断罪パーンチ!」

 ゲブラッと情けない音を立てて吹っ飛ぶ怪人マツキーヨ。そして、吹っ飛んだ先はスーパーの特売コーナーの前。

『さぁさ、ただいまから本日のタイムサービスだよー!』

 店員のアナウンスに、我先にと殺到する主婦達。

 ぐしゃ! めきょ! げしっ!

 哀れ、怪人は恰幅のよろしい主婦達に踏み潰され、ズタボロになってしまった。そして、とどめに小錦級のおばちゃんのハイヒール・アタック。

 チュドーン! 怪人は大爆発し、周囲のおばちゃんを吹き飛ばして消え去った。

「悪は滅びた……さて、福引だ」

 気を取り直したように、ガラポンへと向かうアキラ。そして渾身の力を込めて、レバーを回し始めた。

 ぐりんぐりん……激しい回転。ガラガラと音を立てる玉。

「ぬおおおぉぉ……そこだっ!」

 ピタリと回転を止める。そして一瞬の静寂の後、ころりと転がり出る玉。

「……」

 はっぴを着た、店員。その口が、ゆっくりと開かれる。

「うぉめでとうございまぁーーす! 一等、温泉旅行ご招待ーーーっ!」

 カランカランとベルを打ち鳴らす。たちまちできる、人だかり。

「うむ、これも俺の正義の心が、天に通じたからだな。はっはっは!」

 勝ち誇ったように笑うアキラ。目録を手に、意気揚々と去っていく。

 その姿を追いながら、店員はガラポンを手にする。

「……あれ、空っぽ?」

 ……ということは。

「さっきのあれ、最後の玉だったのか……」

 運が良いのか悪いのか。ともかく、ブレイバーは今日も大勝利を収めたのだった。

 

 

 

「……」

 館の中、買い物に行かせた怪人の帰りを待つ少女。まさか怪人が、主婦の前に敗れ去ったとは、露ほども知らず。

「戻ってきたら、折檻ですね……」

 そのまま少女は、帰るはずの無い相手を待ち続けるのだった。

 

 

 

「たっだいまー!」

 すぱーーーん!

 玄関をくぐるアキラに、容赦なく浴びせられるハリセン。

「……遅いです」

 そこには、フュリスがハリセンを構え、仁王立ちしていた。

「ちょ、ちょっと待て。何でお前がここにいるんだ?」

「あらあら、私が呼んだのよ?」

 ニコニコと笑いながら、真由美が姿を見せる。無表情極まりないフュリスと比べると、まるで女神か菩薩のようだ。

「フュリスちゃん、いつもお空の上でひとりなんでしょ? せっかくだから、ご飯とかはうちで食べていってもらおうと思って」

 実に優しい言葉をかける。心の中まで美しいとは、神も罪なものを創造したものである。

「早く上がってください。夕食が作れません」

 少女に急き立てられ、家に上がる。材料を受け取った真由美は、鼻歌を歌いながら調理に取り掛かる。漂ってくる、スパイシーな香り。どうやら今日のメニューはカレーのようだ。

 アキラ達はテーブルに座り、食事の時を待つ。

「ねぇ、それって何なの?」

 弥生がアキラの持っている物に気がつく。

「ああ、これは福引で当たった賞品だ」

「当たったって、一体何が?」

「何でも、温泉旅行の招待券らしいが……」

「え、ちょっと、嘘っ!」

 目を白黒させる弥生。まさか、そんな事があってもいいものだろうか。ほっぺたをつねってみる。

「……痛いです」

 ほっぺたをつねられたフュリスが、無表情で抗議の声をあげる。

「あ、ごめん……本当に、温泉旅行が当たったの?」

 目録を受け取り、中身を改める。そこには間違いなく、温泉旅行の招待券。

 慌てて弥生は台所の母親を呼ぶ。

「あら、どうしたの?」

「聞いてよママ! アキラが福引で温泉旅行を当てたのよ!」

「まあ、それは素敵ね」

 真由美の笑みを受けて、甲高く笑うアキラ。その頭をフュリスがハリセンでド突き、黙らせる。頭から煙を出して沈黙するアキラ。

「あらあら、でもこの招待券、五名様までって書いてあるわ」

 招待券を受け取った真由美が読み上げる。家族で行ってもふたり。アキラを合わせても、三人。

「……そうだ、フュリスちゃんも、一緒に来ない?」

「……はぁ」

 いかにもいいことを思いついたかのように、真由美は微笑む。対照的に、無表情であっけに取られる少女。

「せっかくだから、みんなで行きましょうよ。大勢の方が、きっと楽しいわ」

「でも……私、仕事が……」

「たまにはお仕事も忘れて、ね?」

 なおもためらいを見せるフュリスに、真由美は優しく語り掛ける。

「それにフュリスちゃんは、アキラさんの事を見守らないと駄目なんでしょ? それだったら、一緒に温泉に行った方が、いいと思うわ」

 その言葉に、黙って少女は頷く。こうして、四人が温泉に行く事が決まった。しかし、あとひとり、招待枠が余っている。

「どうしましょう……? せっかくだから、行かないと勿体無いわ」

 困ったように小首をかしげる真由美。

「……あ、そうだ」

 弥生が思いついたように声をあげる。

「どうしたの?」

「私の友達、誘ってもいい?」

「そうね。せっかくだから、誘ってみるといいわ」

 真由美の承諾を得て、電話に駆け寄る弥生。しばしの沈黙の後、電話が繋がる。

「あ、瑞穂? そう、私。でね、唐突なんだけど、一緒に温泉に行かない?」

 楽しそうにお喋りする。相手は親友の松原瑞穂らしい。

 やがて彼女は電話を切ると、指でオッケーのサインを出した。

 そんな訳で、温泉旅行のメンバーは全て決まったのだった。

ドキドキへの前振り。

さて、そして温泉だ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ