ぶらんこ、に。おんなのこ。
森の奥深く。
人が踏み入ることのないその場所に。
何時、誰が作ったか分からないブランコが風に揺らされていた。
「ん?何だ、あれは」
ある日、動物たちが気づいた。
いつも寂しく揺らされていたブランコに幼子が座っていることを。
腰まである色素の薄い髪を揺らし、静かにブランコを漕ぐ女の子。
彼女は、クリクリとした大きな黒い瞳が印象的だった。
彼女は毎日毎日飽きもせず、ただ一人でブランコを漕いでいた。
動物たちは、最初こそ気にしていたものの、時間が経つにつれ、彼女の存在は寂しげに揺らされていたブランコと同じものに変わっていった。
そんなある日。
「おい。お前、いつも何でブランコを漕いでいるんだ?」
大きな熊が彼女に声をかけた。
やけに甘い匂いがする。
彼女は熊の問いに答えず、大きな瞳で瞬き一つせず、ジッと熊を見つめた。
「無視してないで答えたらどうなんだ」
「…。」
「聞いているのか」
「…。」
答えずにジッと見つめる彼女に熊がイライラとし始める。
熊の獰猛さを知ってか知らずか。
恐ろしい形相の熊に彼女は怯まない。
いくら質問しても怒鳴っても瞬き一つしない彼女に、熊はとうとう諦めて彼女に背を向けた。
しばらく経ったある日。
「美味しそうな子供だなぁ」
今度は狼が彼女に声をかけた。
「俺を見て逃げないなんて、喰われても文句は言えないよなぁ?」
「…。」
「逃げないそっちが悪いんだ」
「…。」
狼の卑劣さを知ってか、知らずか。
やはり、瞬き一つせず、ジッと見つめる彼女。
怯えず、逃げもしない彼女に、狼は気味悪がり、彼女に背を向けた。
ゆらり、ゆらり。
ブランコが揺れる、揺らされる。
ある日、ライオンが彼女に問いた。
「君は、私たちが怖くないのかい?」
やはり、瞬き一つせず、ジッとライオンを見つめる彼女。
ライオンは彼女の返答を諦め、息を吐いた。
その時、たまたま通りかかった小さなリスがライオンに問う。
「あなたは彼女が怖くないのですか?」
リスの問いにライオンが首を傾げる。
「彼女を何故怖がる?」
その時、ライオンは気づいた。
リスの視線がブランコに座る彼女に向けられていないことを。
リスの言う、“彼女”が“彼女”でないことを。
「だって、熊さんも狼さんも彼女に殺されてしまいましたから」
リスの言葉を合図にしたかのように、草陰から銃声が響く。
ライオンの体が重たげに倒れた。
ゆらり、ゆらり。
ブランコが揺れる、揺らされる。
糸で縫い付けられた彼女の体。
大きな瞳が寂しげな死体を悲しく見つめた。