表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たて  作者: oga
9/26

9刀

作者 oga

 夏風はゆったりと起きあがると、小声で上野少年に言った。


「上野殿、拙者に斬りかかるでござる。 拙者がわざと負けた体を装えば、北欧殿を見返すことができるやも知れぬでござる」


 しかし、その発言は火に油を注ぐ形となった。


「ふざけないでッッ! 何で僕がそんな卑怯なことしなきゃいけないんだッ」


 その怒声を聞いた北欧ムサシは、なるほどな、と合点が言った様子で答えた。


「お前の差し金かよ、上野。 俺はお前のことを可愛がってやってたのに、そういうことすんのかよ。 ……引くわ」


「貴様ッ」


 夏風は頭に血が上り、いよいよ刀の柄に手を伸ばした。

思わず、北欧ムサシも一歩退いたが、上野少年がその間に立ちはだかり、今まで見せたことの無いような、恨みの籠もった目つきで夏風を睨みつけた。


「う、上野殿……」


 その目つきはあまりにも暗く、本気で人を殺しかねない、そんな風である。

上野少年の中にある、北欧ムサシを正面から倒したい、その気持ちを自分は踏みにじった。

挙げ句、北欧ムサシからは卑怯者のレッテルを貼られてしまった。

夏風は、いくら北欧ムサシに叶わなくとも、上野少年の気持ちを汲むべきだった、と心底後悔した。

北欧ムサシは、落ちたイヤホンの片割れを拾うと、2人を一瞥してその場からいなくなった。

残るは上野少年と夏風だけ。

ポツポツと小降りな雨が、柄を握る手の甲に落ちる。


「……出て行ってよ」


「上野殿…… す、すまぬ……」


「いいから、出て行ってよッ!」


 上野少年が叫んだ。

そのあまりの声の大きさに、近くを通りがかったおばあちゃんが尻餅を着く。


「ヒイッ」


「上野殿、拙者、他に頼れる身内が……」


 ピシピシッ、と顔面に何かが飛んできた。

そして、チャリン、という音を立てて、数枚の硬貨が地面に飛散する。


「これで、好きなとこいけばいい…… ずずっ、僕の目の前から、消えて……」


 涙目で告げられたのは、絶縁宣言。

地面には、合計200円が転がっていた。


 






 どこをどう通ったのか、分からない。

小粒だった雨が、いつの間にか本降りになる。

その雨に、着ていた「うえの」と書かれた体操服のインクが滲み、晴れたミミズのようになる。

しかし、そんなものを気にとめる余裕が無い程に、夏風の心はくたびれていた。


(拙者としたことが…… 上野殿の努力を全て無駄にしてしまった)


 夏風はいつの間にか、黄色い眉毛の繋がったような看板の店、マックに足を運んでいた。

深夜、ほとんど誰もいない2階の角のテーブルでやけポテトを貪り、涙を流す。


(拙者なんて、拙者なんてどうせ役立たずでござるもんっ)


 ござるもん、という日本語があるかはさておき、突然、誰かが背後から声をかけてきた。  


「こんなとこにいたのか」


「……お、お主は!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ