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たて  作者: oga
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4刀

作者 遠井moka

 バスと言う乗り物に乗り周囲から見られまくっている夏男に平然と話しかけてきた少年。侍の姿でいたと見抜いた眼力、そうして彼から漂ってくる悲しい空気。


「剣術を磨きたいのなら、仕方あるまいな」


 上野少年しか頼れる相手がいない状況なのだが、つい上から物言いをしたくなるのは少年が夏男よりも若く幼い子供のように弱々しく見えてならないからだ。


 どれくらい四角い鉄の塊に乗り続けていただろう、窓から見える外の景色は同じようなビルが並んで大小色んな形をした塊が同じように走っている。この世界では車と言われている乗り物。車がないと生活できない人々もいるようだ。


 人が走って籠に人を乗せていた時とはずいぶんと変わってしまった。変わりすぎた世にどのくらいいるのだろうか?


「ここで降りるから」


 バスの運賃は上野少年が夏男の分まで払ってくれた。上野少年には感謝してもしきれないほどお世話になりっぱなしである。少年が強くなりたいと願ったことを果たさねばと言う想いが夏男の気持ちを強くさせていた。たどり着いた先は道中見かけたような高い建物が見上げるほどの高さまであるマンション。


 透明な扉が開くことに驚いていたが、見慣れてしまえば大したことのない光景だった。摩訶不思議なものばかりだが、夏男に害をあたえるものではないと納得する。カラクリの進化に元の世に帰ったら話して聞かせようとそんな明るいことまで考えられるようになった。


 1501と書かれた扉の前に立つ。上野少年は肩に掛けていた鞄からカギを取り出し扉を開錠させる。開け放たれた扉。先に上がった上野少年が靴のようなものを上がり框に置き入ってくるよう手招きしている。


「僕以外誰もいないよ。入って夏男さん、風が寒いからさ・・・」



 ここに至る道中、木々は色づいていた。身体にあたる風が冷たく感じるほどに季節は進んでいる。上野少年に現在の暦を聞くと神無月かんなづきと教えてくれた。


 扉を閉め、出された靴に履き替える。草履よりもしっかりした生地は温かみがある。廊下を進みながら思い出したことを上野少年に話して聞かせる。



「上野殿。拙者、元いた時代では夏風なつかぜと呼ばれていたのだ。夏男よりもその名で呼ばれた方がしっくりくるのだが」


 廊下の奥へと通じる扉を開け、電気を点ける。少年は肩から下げていた荷物の類を下ろし、振り向きながら苦笑いする。


「じゃあ、夏風さんでいいのかな?」


 制服から胴着へと着替えて竹刀を握る上野少年を見る。弱弱しいのがすぐにわかってしまう。掛け声は小さく、素振りもぶれていて真っすぐに竹刀を下ろせていない。姿勢自体が悪く、上体ばかり前に向かっている踏み出す足位置もバラバラだ。


「上野殿、上体を真っすぐに、しっかりと踏みしめて。声は腹から出さねばならぬぞ」


 上野と夏男の特訓が始まったのである。

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