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たて  作者: oga
25/26

25刀

作者 oga

 夏風は思い返していた。

この時代に来て、侍というものは既に存在しないことを知り、絶望し、流されるままテレビに出演した。

自分は何をしているのか、何がしたいのが、分からなくなり自害することまで考えた。

しかし今、夏風は気が付いた。


(拙者にしか出来ないことがある)


 結局の所、自分には剣術しかなく、その剣にはまだ使い道が残されている。

夏風は、上野少年に背中を向けたまま言った。


「上野殿、まだまともに剣を教えていなかったでござるな。 よく目に焼き付けるのだ」


「な、何をするの?」


「拙者の奥義を見せるでござる」


 ナッツの手下の黒装束4人が、東西南北からにじり寄る。

夏風は小刀を構え、そのまま体を捻った。

その瞬間、夏風の体から強烈な熱が放たれる。

冬花が叫んだ。


「な、夏風さんっ、すごい熱っ……」


 夏風の細胞の一つ一つが熱く煮えたぎり、それが小刀に伝わり、直後、柄から切っ先に向けて炎が巻いた。


「巻き込まれたくなければ、伏せているでござる!」


 冬花が上野少年を抱えて、地面に伏せた。

黒装束の4人が飛び掛かる。

その刹那、夏風の小刀が弧を描いた。


「奥義・不死炎円陣スパイラルフェニックス!」


 夏風を軸にして、炎が巻き起こり黒装束を飲み込んだ。


「ぐわあっ」


 夏風の放った剣の軌道上を、上野少年と冬花を守らんと炎の壁が激しく舞う。

そして、気が付けばそこにいた黒装束はみな、仰向けに倒されていた。

その様子を見た冬花が、恐る恐る確認する。


「殺し、ちゃったの?」

 

 すると、夏風は時折見せる優しい表情を向けた。


「大丈夫、峰打ちでござるよ」


 上野少年が興奮した様子で話す。


「な、夏風さん、すごいっ…… けど、あんな技、マネできないよ……」


 すると今度は、けたたましい悲鳴が聞こえた。


「あっ、あづいっ、アヅイイイーーッ!」


「ナッツ殿!」


 飛び火した炎が、脂肪分をたっぷり含んだナッツの体を凄まじい勢いで燃やしていく。


「いかんっ、あれでは……」


 冬花が駆け出し、部屋に置かれていた家庭用の消火器を手に取った。

栓を抜き、ノズルをナッツに向けて噴射した。

瞬く間に白い煙が部屋を包む。


「ナッツさん、大丈夫ですか!?」


「……」


 煙が引くと、ナッツの姿が晒された。

しかし、そこにいたのはまるで別人のような姿のナッツであった。

脂肪分は消え失せ、サラサラの黒髪をたなびかせた、スレンダーな美女。

 

「……夏風さん、あなたの炎が、私の邪な気持ちを全て焼き払ってくれました」


「……え、どなたでござるか?」


「ナッツ、だったモノです。 私は時代劇が好きでこの仕事を始めましたが、いつしか利権に囚われ、身も心も歪んでしまっていました。 しかし、これからは初心に戻り、より良い番組を作っていきます。 あと……」


 ナッツだった何かは、黒幕の存在について語り始めた。

黒幕は真白誠という男で、夏風と冬花が付き合わなければ、その企みも自然に消滅すると言った。


「それなら、これにて一件落着でござるな」


「……あ、あの」


 突然、冬花が恥ずかしそうに夏風にささやいた。


「今度、一緒にお食事でも……」


「え、い、イヤイヤ、何を……」


「冬花さん、夏風さんのかっこいいとこみて、惚れちゃったんじゃない?」


「な、何を言っているでござるか! 今し方、真白誠と申す黒幕の話を……」


「夏風さんっ、お願いしますっ!」


「か、勘弁してくれでござる……」


 上野少年は、その様子を微笑ましく見守っていたが、突然、表情を引き締めた。


(まだ、やらなきゃいけないことがある)


 そして……



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