24刀
作者 遠井moka
夏風に刀を向ける者を忘れたことはない。多賀と同様にこの時代に来て優しく、時には突き放しながらも友情を深めていた。共に竹刀を振り稽古をした仲。
「夏風・・・どうするのかしら?彼女を助ける。それとも彼を助ける?どちらも大切な人でしょう」
黒装束に囲まれて不敵な笑みを向けるナッツ。冬花は一歩も動けずに、瞳に涙を浮かべている。キラリと光る刀は夏風の前に立ち塞ぐ人物の背中をうつしている。
「勉学をしている時間であろう・・・・」
「邪魔者、排除」
目は虚ろで夏風を認識しているかどうかも怪しい所だ。目の前にいる彼は、自分の意志をしっかり持った少年。夏風の活躍を誰よりも応援してくれている人。夏風の揺れる心境などお構いなしに俊敏の速さで刀を振り下ろしてくる。
カキーン・・・
夏風はとっさに懐に忍ばせていた小刀を手に取り攻撃を防ぐ、あの時のひ弱な少年ではない、彼の剣術に戸惑い交代する夏風。
ナッツが事の真相を背後で唾を飛ばしながら話し出す。その声は興奮して戦わせようと煽っている。
「彼・・・・上野悟志と仲良しだってことも多賀から聞いたことよ。友人思いなのね。部活帰りにあなたの様子を見にくるほどだもの。それでね、あたし彼の近くに行ってある言葉をかけたのよ・・・催眠術みたいなものよ」
催眠術と聞いて納得する。目が虚ろなのもそのせいだろう。でも、どうやって催眠がかかりやすくしていたのだろう。ナッツはすべてがバレて口が軽くなっていてその疑問も明かしてくれた。
「素直で真っすぐな子ってね。暗示にかかりやすいのは知ってるかしら?多賀と上野が出会ったときからちょっとずつ、暗示がかかりやすくしてたのよぉ!!『夏風が危険』その言葉に反応するようにねぇ」
夏風はこんな事態に巻き込んでしまったことを悔いて、小刀を力なく下ろす。手から離れた小刀が地面に落ちて鳴り響く。
「夏風さん!!」
冬花が絶叫しながら夏風の名を叫び続ける。上野少年が柄を握り直し再び、刀を振り上げた時だった――――
「い、い・・。今のうちに早く!!」
目元の光が戻りいつもの彼の口調で顔を上げる夏風の瞳に映ったのは苦痛で顔を歪ませながらも笑っている少年だった。
「う、上野殿?」
カチカチと震える刀、あぁこんな時も彼は自分のことより他人を優先させている。まったく世話が焼ける少年で困る。
「決まったようね。可哀そうな少年なこと・・・」
ナッツの腕から冬花が解き放たれる。冬花の周りにいた手下たちが夏風の前後左右に散り行く、彼女を選んだとナッツは思い込んでくれたようだ。
「まだ、答えておらんよ?」
上野の意志が再び朦朧とし、夏風の眼前へと刀が振り下ろされる寸前、落ちていた小刀を手に取り柄の部分を上野のみぞおちに向け一突き。呻きながら、倒れ込む上野を支えたのは冬花だった。なんとしてもこの二人を守らなければ・・・
「冬花殿、しばしの間上野殿を頼む。拙者の背後から決して離れぬよう、よいな?」
拙者はきみたちを守る盾になろう。
夏風はふぅと深呼吸し、小刀を握りしめて声を張り上げた。
「さぁ、いざ参る!!」




