21刀
作者 oga
夏風の住む高層マンションの1階。
カーテンで中の様子が分からないようになっている管理室に、贅肉を蓄え、バーコード頭の男、多賀がいた。
スマホを耳に当てて、こんな内容の話をしている。
「そちらの進捗は、どうですかぁ?」
「うまくいってるわよ。 これから料理が運ばれてきたら、この小瓶の中身を冬花ちゃんに盛るわ」
「……よろしく、頼みますよぉ」
「そっちこそ、きっちり500万、振り込んでよね」
このオカマ口調の相手は、昼間に撮影を仕切っていたナッツであった。
なんと、多賀とナッツは繋がっていたのである。
事の真相は、数ヶ月前に遡る。
多賀は都内から外れた町医者で、「優しい狸先生」という愛称で親しまれていた。
そんなある日、街に妻と買い物に出かけた際、暴走したトラックにはねられ、妻は意識不明の重体となる。
「だっ、誰かっ、妻を……」
そこに現れたのが、偶然、昼休みで外に出ていた白衣を羽織った医者、真白誠である。
妻を病院へと搬送し、そこで先ほどの医者から残酷な宣言を受けた。
「残念ですが、奥さんは脳死の一歩手前です」
「そ、そんなぁっ」
「……しかし、我々の病院なら、延命することができる」
その医者は、多賀の妻を延命し、今後の医学の進歩次第で奥さんを助けることが出来るかも知れない、という旨の説明した。
「もちろん、高額な医療費は免れませんが…… 多賀さん、ある条件を飲めば、その医療費、免除しても構いませんよ?」
「……ほ、本当ですかぁ!?」
そして、多賀はこの医者の恐ろしい研究を目撃してしまい、加担させられることとなる。
真白は将来、この病院の医院長になることを目論んでいたが、現医院長は、齢40にして選任された100年に一度の逸材と呼ばれていた。
その医院長を引きずり落とす為に真白は、「裏の医学」に手を出す。
「医院長の先祖を蘇らせ、歴史を変える」
多賀は、にわかには信じられなかったが、その方法は実在した。
そして、医院長の先祖である神風の者を呼び出し、医院長、神風秋草が生まれてこないよう、仕向けるのである。
神風夏風、及び神風冬花。
この2人をくっつければ、歴史は書き換えられ、医院長は生まれてこない。
(ようやく、終わりますねぇ……)
多賀は、そんなことを思いながら、何気なく顎をさすった。
じょりじょりと音がし、しばらくして立ち上がる。
「……ここしばらく、顔も洗っていませんでしたねぇ」
洗面所へと向かい、蛇口を捻って顔を洗う。
タオルで拭い、鏡を見ると、そこには疲れた顔の男がいた。
目は半分眠ったようで、口元は垂れ下がり、深いクマ。
多賀の年齢は40だったが、それより10個以上、老けて見えた。
ひげ剃りを手に取り、顎にあてがうと、ゾワゾワとしたものが足元から心臓へと這い上がる感触。
夏風が刀を抜き放ち、多賀を斬りつけるようなイメージが頭に浮かぶ。
「……」
その時、多賀はひげ剃りを手から離し、その場に倒れた。




