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たて  作者: oga
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2刀

作者 遠井moka

 地下牢から抜け出した夏男は、刀を懐へと仕舞い壁の隙間から通路を伺っていた。人々の髪型は多種多様でハイカラな色に染めている者もいた。服装は見たことのない軽装。


 白い着物を着ているものなどいない、白い服装をしている人物はここの関係者のようだ。


 (服は奪い取るしかなさそうだな)


 ただ、夏男を悩ませる問題が発生する。夏男の髪型はちょんまげ頭だ。様子を伺ったところ、そのような髪型をして廊下を出たところで返って目立ってしまう。


 先ほど地下牢で扉を切り破って脱出したにも関わらず上の階のものは平然としている。音が密閉されていたのか?ここで潜んでいては先に進まぬ。追手が迫っているやもしれぬし・・・


 病院関係者が通り過ぎていくのを何度か見送り、狙いをつけた男性医師が階段脇を通り過ぎる前に、壁をノックした。幸いなことに階段を利用する者がいなかったのは救い所だ。


「ん・・なんだ?」


 彼から四角になる場所に身を潜め、指で音を立てて誘導する。小太りの医師が何事かと一段また一段と降りてきたところで忍び込ませていたみぞおちに向け一突きする。男が倒れるのを支え、彼が羽織っている衣服を羽織る。壁に彼を移動させた瞬間、何かが落ちた。


「なんじゃ・・・これは?」 


 男性の髪から落ちたそれを手に取り、壁にもたれかけた彼を見やる。彼の髪がなくなっているではないか!!夏男は息をのみ手に取っていたものと彼を見つめ呟く。


「妖術か何かか」


 妖術にしては、髪質が見事に再現されているそれを夏男は恐る恐る頭部に装着。ちょんまげ頭は隠され、今風の髪型に変わっていた。のちに知ることだが、ツーブロックの髪型らしい。



 階段から廊下に出た夏男は、周囲に怪しまれはしないかと視線を四方に彷徨わせる。白衣姿の夏男を怪しむものはいない。この服装からまた別の服装へと着替えねばいけぬ。



「すまないが」



 清掃中のおばちゃんに声をかける。彼女はきょとんとした顔つきになり、白衣姿の夏男を見る。心の臓はおかしくなったぐらい早くなっている。落ち着けと頭の中で己に言い聞かせる。



「あらぁ、多賀たが先生どうしたの?」



「この身なりを着替えたいのだが」



 彼女は丸まっこい手をひらひらさせながら。



「更衣室なら五階にあるじゃない?どうしちゃったの喋り方まで変よ」



 かたじけないと礼を述べ、五階へと階段を駆け上る。時折何人かの看護師に更衣室の場所を訪ねながらやっとの思いでたどり着く。多賀のロッカーの前に行く、ロッカーというものがどんなものなのかまた恐る恐る手をかけ開くと多賀の服がそこにかけてあった。ロッカーの鍵も暗証番号も入れずに開けられたのだからツイていたのだろう。



 ぶかぶかのロゴ付きパーカーに青いジーパンを履く。服まで盗んでおいてなんだが靴までは遠慮しといた。履きなれた草履で動くのがいいだろうと思ったからだ。ここから出たら真っ先に刀が隠れる大きめの服を揃えねばならぬ多賀が目を覚ますよりも早く。それまでは白衣を上着に刀を隠して動くしかあるまい。



「失敬失敬・・・」



 病院を抜け出して三度みたび驚く、大きな物体が動きその大きな物体から人が次々に出てくるではないか?この物体はなんだ。


「初めて見た反応してるの貴方だけだよ」


 いつの間に白衣を掴んでいる少年が怪訝そうな顔を夏男に見せる。少年は制服姿で白衣を掴んでいる手の甲にも顔にも白いものが貼られていた。



「貴方この時代の人じゃないでしょう?タイムスリップした人みたいに驚いているから」


 少年は童顔でありながらひょろっとした細身の少年。丸眼鏡はひび割れており、身長は夏男より低い一六〇後半だろうか?



「助けてあげるけど、その前に名前を教えてよ」



「お主のほうこそ名を名乗るべき・・・」



 少年は俯きながら何やらごぞごぞと呟き、先ほどより声を大きくして叫ぼうとしているではないか。少年の口を塞ぎ夏男は名を述べる。



「神風夏男でござる」



「僕は上野悟志うえのさとし



 少年改め上野が差し出した片手もまた白いものが貼られていた。上野に習い夏男も片手を差し出す。握手を交わし上野に引っ張られるように上体が前方へと近づく。上野は耳元で囁いた。



「服装も髪型もいまいちだから、変えなよ。隠しているのだってバレたら警察行き・・・いや町奉行に差し出されるんだよ」



「そんなのは御免被る」



 上野は肩にかけていたもう一つの方を差し出す。中身はちょっと汚れた上下同じ色をしたものだった。



「体操服が入っているからさ」



 言いながら病院に戻され厠へと向かって行く。厠の扉はいくつもありそこにも驚嘆していると、上野はため息交じりに夏男を急かした。



「驚くのはわかるけど、早く着替えてくれないかな。バレちゃうよ服盗んだこと」



 個室へと入り体操服とやらに着替える。丈も袖口も短すぎて微妙な格好になるが、先ほどよりは馴染んでいるらしい。上野に多賀の衣服と白衣を手渡す。多賀から落ちたものだけは返せない。



 すまぬ多賀何某。心の中で謝りながら夏男は上野と一緒に行動に移すのである。


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