17刀
作者 oga
午前12:00。
この時間に、都内を走る二ノ丸線の虎乃巣駅と呼ばれる駅の商店街に、ナッツ率いる撮影隊が集まっていた。
「さ~て、早速だけどストーリーのおさらい、していこうかしら」
「はいっ」
スタッフはカメラマン、音声、メイクが一人ずつの少数。
そして、集まった役者は2人。
一人は街ぶライダー役、木更津ハヤト。
所属はトミーズ事務所で、アクションシーンの得意な売り出し中のイケメン俳優である。
もう一人は、無所属、リアル侍役の夏風。
なぜ、ど素人の夏風が大抜擢されたのか。
早朝、ナッツに挨拶に行った際、夏風はこのような返答を受けていた。
「やっぱりさ、殺陣のシーンって大事じゃない? あなた、剣術は得意そうだから。 それと…… 視聴者のウケ次第だけど、脚本の変更も考えてるのよね」
車の後部座席で、タバコを吹かしながらナッツが答える。
「レギュラーにしてもいいって、私はね、そう思ってるの」
「ほ、本当ですかぁ!?」
多賀は夏風を肘で小突き、これはチャンスですよぉ! と興奮気味に耳打ちする。
「まあ、その為には脚本の変更が必要だからさ。 書き直すの若干面倒くさいし、本当に評判が良かったら、だけど」
街ぶらいだーはナッツがプロデューサーで、尚且つ脚本、演出も兼任している。
殺陣のシーンの出来次第で、自分の出番が増える。
(……これは好機、でござるな)
ナッツがストーリーのおさらいをする。
「まず、街ぶライダーは商店街を守るライダーで、都内の商店街を回っているわ。 一方、リアル侍もこの商店街を守る侍。 なぜ二人が戦うことになるのかだけど、黒幕がいるわ。 商店街を潰してショッピングモールを作ろうと目論むライオングループの刺客(女優、神風冬花)がお互いにニセの情報を流す。 相手はこの商店街を潰そうとしている、とね」
台本を持ちながら、ナッツが商店街を回る。
「ライダーは商店街のコロッケを食べながら、この古本屋でばったり侍と出くわす。 そして、殺陣のシーン。 殺陣はアドリブになるから、よろしくね」
夏風が多賀に小声で確認を取る。
「あどりぶ、とはなんでござるか?」
「自由に演じていいってことですよぉ」
多賀の口から、先ほど食べた餃子のニンニクの匂いが立ちこめ、夏風は眉をひそめる。
(ぐうっ、相変わらず匂いのキツイ男よ。 ……しかし、自由に、でござるか。 そちらの方が窮屈せずにすみそうでござるな)
「よろしく、侍さん」
ライダー役の木更津が、爽やかな笑みをこちらによこす。
そして、本番がスタートした。




