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たて  作者: oga
17/26

17刀

作者 oga

 午前12:00。

この時間に、都内を走る二ノ丸線の虎乃巣駅と呼ばれる駅の商店街に、ナッツ率いる撮影隊が集まっていた。


「さ~て、早速だけどストーリーのおさらい、していこうかしら」


「はいっ」


 スタッフはカメラマン、音声、メイクが一人ずつの少数。

そして、集まった役者は2人。

一人は街ぶライダー役、木更津ハヤト。

所属はトミーズ事務所で、アクションシーンの得意な売り出し中のイケメン俳優である。

もう一人は、無所属、リアル侍役の夏風。

なぜ、ど素人の夏風が大抜擢されたのか。

早朝、ナッツに挨拶に行った際、夏風はこのような返答を受けていた。


「やっぱりさ、殺陣のシーンって大事じゃない? あなた、剣術は得意そうだから。 それと…… 視聴者のウケ次第だけど、脚本の変更も考えてるのよね」


 車の後部座席で、タバコを吹かしながらナッツが答える。


「レギュラーにしてもいいって、私はね、そう思ってるの」


「ほ、本当ですかぁ!?」


 多賀は夏風を肘で小突き、これはチャンスですよぉ! と興奮気味に耳打ちする。


「まあ、その為には脚本の変更が必要だからさ。 書き直すの若干面倒くさいし、本当に評判が良かったら、だけど」


 街ぶらいだーはナッツがプロデューサーで、尚且つ脚本、演出も兼任している。

殺陣のシーンの出来次第で、自分の出番が増える。


(……これは好機、でござるな)









 ナッツがストーリーのおさらいをする。


「まず、街ぶライダーは商店街を守るライダーで、都内の商店街を回っているわ。 一方、リアル侍もこの商店街を守る侍。 なぜ二人が戦うことになるのかだけど、黒幕がいるわ。 商店街を潰してショッピングモールを作ろうと目論むライオングループの刺客(女優、神風冬花)がお互いにニセの情報を流す。 相手はこの商店街を潰そうとしている、とね」


 台本を持ちながら、ナッツが商店街を回る。


「ライダーは商店街のコロッケを食べながら、この古本屋でばったり侍と出くわす。 そして、殺陣のシーン。 殺陣はアドリブになるから、よろしくね」


 夏風が多賀に小声で確認を取る。


「あどりぶ、とはなんでござるか?」


「自由に演じていいってことですよぉ」


 多賀の口から、先ほど食べた餃子のニンニクの匂いが立ちこめ、夏風は眉をひそめる。


(ぐうっ、相変わらず匂いのキツイ男よ。 ……しかし、自由に、でござるか。 そちらの方が窮屈せずにすみそうでござるな)


「よろしく、侍さん」


 ライダー役の木更津が、爽やかな笑みをこちらによこす。

そして、本番がスタートした。




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